イェール・モデルとは何か──大学基金の運用はなぜ増えるのか

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米国トップ大学の決算書を眺めると、日本の私立大学とは決定的に違う一行が目に入ります。収入の3〜4割が、授業料ではなく寄付基金(endowment)の運用益で賄われているという事実です。前回の記事【2025年度決算】ハーバードと早慶、「稼ぎ方」を決算書で比べてみたでは、この「運用で回す大学」という構造を決算書から確認しました。

そこで自然に湧く問いが、本稿のテーマです。なぜ、そんなに増やせるのか。 その答えとしてしばしば語られるのが「イェール・モデル(Yale Model)」と呼ばれる運用手法です。ただし、称賛だけを紹介しても実務の役には立ちません。この記事では、(1)イェール・モデルとは何か、(2)「秘密」を学術研究はどう説明しているか、(3)そのモデルは今も有効なのか(批判)、そして(4)日本の私大に何が真似できて何が制度的に難しいのか、までを両論併記で整理します。

この記事の数値・事実は、各大学が公表する年次報告書・財務報告書、学術論文、および文部科学省・NACUBOの公表資料といった一次資料から採っています(記事末尾に出典URLを一覧掲載)。報道ベースでしか確認できない事項は「報道によると」と明記しました。本記事は情報提供を目的とするもので、特定の運用商品・手法を推奨するものではありません。

この記事はAI(Claude Fable 5)で執筆しました。一次資料の収集・執筆・数値の検証をAIエージェントの分業で行い、運営者(人間)は企画・指示と公開前の確認を担当しています。海外大学の運用や学術研究は、私学法・学校法人会計の記事と異なり、運営者自身が原典を読み込みきれていない領域のため、その旨を明示します。誤りにお気づきの際はお問い合わせフォームからご指摘ください。


目次

イェール・モデルとは何か

イェール・モデルは、1985年にイェール大学の最高投資責任者(CIO)に就任したデービッド・スウェンセン(David Swensen)氏が築いた運用の考え方です。就任時31歳、ノーベル経済学賞受賞者ジェームズ・トービンの門下という経歴でした。彼の在任は2021年に亡くなるまで35年に及び、その間の運用リターンは年率13.7%。就任時に13億ドルだった基金は在任最終年度(2021年6月末)に423億ドルとなり、その後もFY2025末(2025年6月末)で約441億ドル(Financial Report上は$44,155M)まで拡大しています。

その哲学は、大きく3本の柱で語られます。

主張 実務的な含意
① 資産配分がリターンをほぼ決める 個別銘柄の選択やタイミングより、どの資産クラスにどれだけ配分するかが成否を分ける まず「基本方針(ポートフォリオ設計)」を固めることが最重要
② 非効率な市場でこそアクティブ運用が効く ベンチャーキャピタル・LBO(未公開株買収)・不動産・天然資源など、価格が付きにくい市場では優れた運用者が超過リターンを出しやすい 効率的な上場株では低コストのインデックス、非効率な市場では厳選した運用者へ
③ 大学は永続資本だから流動性を捨てられる 大学は事実上「解散しない」ため、すぐに換金できない資産を長く保有でき、その見返り(流動性プレミアム)を取れる 短期の値動きに動じず、非流動資産を厚く持てる

この3本柱を実際の配分に落とし込んだ結果が、資産構成の大転換でした。イェール自身の報告書によれば、1988年には米国株・債券への目標配分が合わせて65%を占めていましたが、2018年には米国内の市場性資産(株式・債券・現金)への目標が9.5%まで縮小しています。さらに遡れば1984年には基金の4分の3超が米国株・債券・現金だったという記述もあり、いかに大きく舵を切ったかがわかります。

イェール大学基金の資産構成の変遷(各年6月末・実績。出所は本文末尾)
イェール大学基金の資産構成の変遷(各年6月末・実績。出所は本文末尾)

実額の配分(各年6月末)を追うと、米国株が2000年の14.2%から2018年の3.5%へ細り、代わりにPE(LBO+VC)が25.0%から33.1%へ、絶対収益(ヘッジファンド等)が19.5%から26.1%へと厚くなっていく流れが読み取れます。これはイェール1校の話にとどまりません。同大の報告書は、1980年代半ばに「米国株50%・債券45%・オルタナティブ5%」が典型だった大学基金が、2010年頃には平均で「米国株17%・債券18%・オルタナティブ65%」へと様変わりしたと記録しています。イェールが切り開いた道を、業界全体が追いかけた格好です。

このモデルの「胆力」を象徴するのが、1987年のブラックマンデーでの対応です。暴落の直後、スウェンセン氏はあらかじめ決めた政策配分を維持し、むしろS&P500先物を買い増してリバランス(配分の目標比率への復元)を行ったと報告書に記されています。値下がりした資産を機械的に買い戻す規律が、長期のリターンを支えたわけです。

そして、この積極運用を「毎年使いながら殖やす」ことと両立させているのが支出方針です。イェールは目標支出率を年5.25%(2018年報告書時点)に置きつつ、単純に時価の5.25%を取り崩すのではなく、前年の支出額の80%+(目標支出率×2年前の基金時価)の20%という平滑化ルールを用います。さらに支出率が4.0〜6.5%のレンジに収まるよう制約をかけています。市場が急落した年でも支出を急に絞らずに済み、逆に急騰した年に使いすぎない。基金を「毎年の予算の財源」にしながら元本を殖やしていくための、地味だが要となる仕組みです。


ハーバードの現在地

同じ「オルタナティブ重視」でも、ハーバードの姿は最新の開示で確認できます。基金運用を担うハーバード・マネジメント・カンパニー(HMC)のFY25年次報告書によれば、2025年6月末の資産配分は次のとおりです。

ハーバード大学基金の資産構成(FY2025・HMC年次報告)
ハーバード大学基金の資産構成(FY2025・HMC年次報告)
  • プライベート・エクイティ(PE)41%(バイアウト13・グロースバイアウト4・VC14・グロースベンチャー10)
  • ヘッジファンド31%(ロング/ショート9・無相関16・マルチ3・クレジット3)
  • 上場株14%/不動産5/債券・TIPs 4/その他実物資産3/現金3

上場株はわずか14%で、非上場資産に大きく張る構図はイェール・モデルの発想と共通します。HMCのFY2025リターンは+11.9%、基金時価は約569億ドル。長期のベンチマークは年8%(支出約5%+インフレ約3%)に置かれ、現CIOのナルベカー(N.P. Narvekar)氏の体制8年(2017年〜)での運用リターンは年率9.6%とされています。

ハーバードで見逃せないのが、2017年の組織改革です。報道によると、ハーバードはそれまで一部の資産を内部の運用チームが直接運用する「ハイブリッド型」でしたが、この年に内部運用チームを全廃し、人員を半減させて、外部運用者への委託を主体とする体制へ転換しました(この経緯は業界紙や学内紙の報道で一致していますが、公式の一次資料では確認できていません)。イェールが早くから外部運用者の起用を軸にしてきたのに対し、ハーバードは後追いで運用体制をつくり替えた、という対比で語られることが多い出来事です。

開示姿勢という点でも、両校は対照的です。イェールは詳細な資産配分表を2018年度版を事実上最後に非開示化し、近年は数段落のプレスリリースと新CIOの書簡のみになっています。一方のハーバードはFY25でも資産クラス別の配分%を明示しています。「秘密」を守る側と、開示する側。同じイェール・モデルの系譜にありながら、情報公開のスタンスは分かれています。


「秘密」の学術的な答え

では、これらエリート校の高リターンの「秘密」を、学術研究はどう説明しているのでしょうか。代表的な3本の結論を並べます。

研究 対象・期間 結論の要旨
Lerner, Schoar & Wang「Secrets of the Academy」(JEP 2008) 1000校超・1992〜2005年 高リターンの要因はオルタナティブ配分の大きさと「学生の質」(卒業生ネットワーク)。「豊かな大学がより豊かになる」構造
Barber & Wang「Do (Some) University Endowments Earn Alpha?」(FAJ 2013) 1991〜2011年 平均的な基金の超過収益(アルファ)はほぼゼロ。エリート校は株・債券比で年+2〜4%だが、HF・PE指数を加えるとアルファは統計的にゼロ
Ennis「The Endowment Syndrome」(CFA Institute 2024) GFC後の16年 アイビー平均はインデックスに年約1.5%劣後(詳細は次章)

とりわけBarber & Wangの分析は、「秘密」の正体をくっきりさせます。エリート校のリターンを単純な株・債券のベンチマークと比べると年+2〜4%の超過収益に見えますが、比較対象にヘッジファンド指数とPE指数を加えると、超過収益は統計的にゼロ(推計で年▲0.99〜+0.46%)まで縮みます。つまり、彼らの好成績は「魔法のような銘柄選択」で生まれたのではなく、早くからオルタナティブに大きく張るという資産配分の意思決定でほぼ説明できる、というわけです。Lerner他が指摘した「オルタナ配分+卒業生ネットワーク(優れた運用者やディールへのアクセス)」とも整合します。秘密は、銘柄ではなく設計にありました。


反証:モデルは今も有効か

ここまでは称賛の側の話です。しかし、イェール・モデルには近年、正面からの批判があります。元機関投資家運用者リチャード・エニス(Richard Ennis)氏が2024年にCFA協会のブログで示した「The Endowment Syndrome(基金症候群)」がその代表です。

金融危機後16年の年率リターン比較(Ennis, 2024)
金融危機後16年の年率リターン比較(Ennis, 2024)

エニス氏の主張はこうです。世界金融危機(GFC)後の16年間を取ると、アイビーリーグ基金の平均リターンは年8.3%だったのに対し、株85%・債券15%のシンプルなインデックスは年9.8%だった。年▲1.5%、累計にすると約20%もの機会損失にあたる、というのです。かつて超過収益の源泉だったオルタナティブ運用が、いまはむしろ足を引っ張っているのではないか、という問題提起です。

その理由として挙げられるのが、コストと競争激化です。エニス氏の試算では、PEは年6%超、ノンコア不動産は4〜5%、ヘッジファンドは3〜4%の費用がかかり、大規模基金全体では年3%超のコストを負担している計算になります。加えて、かつては少数の先行者しかいなかったオルタナティブ運用の世界に、いまや運用会社が1万社を超えて参入しています。先行者優位(早く始めた者だけが取れた超過収益)は、参入者の増加とともに薄れていく——これがエニス氏の見立てです。

興味深いのは、イェール自身がこの変化を否定していない点です。新しいCIOは「今後40年の成功は、過去40年とは違う形になる」と述べ、詳細な資産配分の非開示化に踏み切りました。かつて業界に手法を惜しみなく公開した大学が、いまは配分を明かさない。これ自体、環境が変わったことの一つの表れとも読めます。

参考までに、大学基金全体の直近の姿も見ておきます。NACUBO(全米大学経営管理者協会)のFY2025集計では、調査対象657校の平均リターンは+10.9%、過去10年の平均は年7.7%でした。単年では堅調でも、10年の平均で見ると必ずしも突出した数字ではありません。

もっとも、エニス氏の主張はあくまで「一つの批判」であり、当ブログとして「イェール・モデルはもう終わった」と断定するものではありません。測定する期間の取り方一つで結論は変わり得ます。GFC後という株式が長く強かった局面を切り取れば、株式インデックスが有利に出やすいのも事実です。ここで確認できるのは、「秘密は確かに実在した。ただし、その賞味期限をめぐる議論が現在進行形である」という現状までです。


日本の私大に真似できるか

最後に、学校法人会計に携わる読者にとっての本題です。このイェール・モデルを、日本の私立大学は真似できるのでしょうか。結論から言えば、配分そのものの模倣は制度・構造の両面で難しい一方、設計思想には学べる点がある、という整理になります。

制度面:安全性重視の枠組み

日本の学校法人の資産運用は、文部科学省の通知「学校法人における資産運用について」(20高私参第7号・平成21年1月6日)が基本的な枠組みを示しています。要点は次のとおりです。

  • 運用は各法人の自己責任で、寄附行為・規程に基づいて行う
  • 安全性を重視することを明示
  • デリバティブや仕組債など元本が保証されない商品は「特に慎重に」取り扱う
  • 理事の善管注意義務をあらためて認識する
  • 基本方針・権限と責任・意思決定手続・モニタリング・成果目標・保有可能商品・限度額の7点を規程で整備する
  • 理事会を最終的な意思決定・監督機関と位置づける

PE41%・ヘッジファンド31%といった配分は、この「安全性重視」「元本非保証商品は特に慎重に」という枠組みのもとでは、そのまま持ち込める性質のものではありません。理事が善管注意義務を負う以上、値動きの大きい非流動資産に基金の大半を張るという判断は、日本の制度環境では相当にハードルが高いのが実情です。

構造面:永続資本と寄付文化の差

制度以前に、そもそも構造が違います。前回の記事で対比したとおり、日本の学校法人会計には米国のendowmentに直接対応する制度がありません。もっとも近いのは第3号基本金(引当特定資産)ですが、これは「運用益(利息・配当)を奨学金・研究助成など特定の事業に充てる」限定的な基金であり、値上がり益まで含めて計画的に取り崩し大学全体の経常費を賄う米国型のendowmentとは、役割の重さが異なります(この対比は前回の記事の表に詳しくまとめています)。

さらに、日本の私大の多くは毎年の学生納付金で収支を回す構造です。学生数の増減が経営に直結する以上、非流動資産に張って流動性を捨てるという選択は取りにくい。寄付が基金の中心を占める米国とは、そもそも元手の集まり方(寄付文化)も違います。イェール・モデルの前提である「永続資本だから流動性を捨てられる」という③の柱は、日本の私大には素直に当てはまりません。

なお、近年はリスクテイクを促す潮流もあります。2024年8月には資産運用の高度化を促す「アセットオーナー・プリンシプル」の受入れ表明リストが公表されるなど、環境は少しずつ動いています(ただし学校法人への具体的な影響は本稿では詳しく精査できておらず、今後の論点として挙げるにとどめます)。

真似すべきは配分ではなく設計思想

では、学べるものは何もないのでしょうか。そうではありません。模倣すべきは配分の中身ではなく、それを支える枠組みと文化のほうです。

  1. 目的から逆算した基本方針:イェール・モデルの出発点は「まず資産配分を固める」でした。運用の目的(何のための基金か)から逆算して基本方針を定めるという順序は、規模を問わず通用します。文科省通知が求める規程整備とも方向は一致します。
  2. 理事会が機能するガバナンス:善管注意義務を果たすには、意思決定と監督の仕組みが実際に機能していることが前提です。イェールが暴落時に規律を保てたのも、方針を守り抜く体制があったからでした。
  3. トータルリターンで測る文化:利息・配当だけでなく、含み損益まで含めたトータルリターンで運用を評価する視点です。当ブログが関東の有名私大10校 2025年度決算比較で試算したように、日本の私大の運用も同じものさしに載せれば、単なる「利息収入の多寡」とは別の姿が見えてきます。

配分そのものは制度が許さなくても、この3点は日本の学校法人にも輸入可能です。


まとめ:秘密の正体と、学ぶべきもの

イェール・モデルの「秘密」を、あらためて4点に整理します。

  • ① 資産配分:上場株を薄くし、オルタナティブに大きく張るという設計そのもの。超過収益の大半はここで説明される(Barber & Wang)。
  • ② 流動性プレミアム:永続資本という立場を活かし、すぐ換金できない資産を長く保有してその見返りを取る。
  • ③ 先行者優位:早くからオルタナに参入した者だけが取れた超過収益。ただしエニス氏は、競争激化でこれが薄れていると批判している。
  • ④ ガバナンスと人材:暴落時にも方針を貫く規律と、優れた運用者・ディールへアクセスできるネットワーク。

秘密は確かに実在しました。しかし、それが今後も同じように効くかは議論の最中にあります。そして日本の私大にとっては、配分を真似ることよりも、その背後にある設計思想——目的から逆算し、ガバナンスで規律を保ち、トータルリターンで測る——を学ぶことのほうが、はるかに実務的な意味を持ちます。模倣ではなく、設計思想を学ぶ。 それが、世界トップ校の運用を決算書から読む価値だと考えます。

国内私大どうしの運用スタイルの違い(含み損益・受取利息の実入り)については関東の有名私大10校 2025年度決算比較を、世界トップ校と早慶の稼ぎ方の比較はハーバードと早慶、「稼ぎ方」を決算書で比べてみたを、あわせてご覧ください。本シリーズの続きとして、「基金が大きいほど運用がうまいのか」を日米の全数データで検証した第2回、米国型を手本に設計された10兆円大学ファンドの現在地を読む第3回も公開しています。


出典・注記

イェール

  • Yale Investments Office|The Endowment
  • The Yale Endowment 2018(目標配分・支出方針・歴史ナラティブ)|PDF(Wayback)
  • The Yale Endowment 2004(1984年の配分・実額配分)|PDF
  • 旧年次報告書アーカイブ|Wayback
  • Yale reports investment return for fiscal 2025(FY2025 +11.1%・$44.1B・10年9.4%)|Yale News 2025-10-24

ハーバード

  • HMC Annual Report FY25(FY25資産配分・+11.9%・$56.9B・年率9.6%)|PDF
  • ※2017年の内部運用チーム全廃・人員半減は業界紙・学内紙の報道に基づくもので、公式の一次資料では未確認です。

学術・実務研究

日本側の制度

  • 文部科学省「学校法人における資産運用について(通知)」(20高私参第7号・平成21年1月6日)|PDF掲載ページ

注記

  • 本記事の運用リターン・資産配分は各校の公表値であり、会計基準・集計方法が異なるため単純比較はできません。イェールとハーバードの数値は公表単位(Financial Report/HMC)が異なります。
  • イェールの2020年度以降の資産クラス別配分は非開示化されており、本記事の配分数値は2018年度までの公表値に基づきます。二次情報のみの数値は使用していません。
  • Ennis氏の分析は数ある評価の一つであり、当ブログの断定的見解ではありません。測定期間により結論は変わり得ます。
  • 本記事は情報提供を目的とするもので、特定の運用商品・運用手法の推奨ではありません。
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この記事を書いた人

経理・財務が10年以上の大学職員です。

資格:簿記2級、FP2級、TOEIC L&R 920点
投資年数:10年以上
投資対象:投資信託(主にインデックス投資)、暗号資産、米国株

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