2026年(令和8年)7月22日、文部科学省から「大学の資産運用の促進・高度化に向けたガイドブック」の策定及び学校法人会計における有価証券の時価情報等に関する情報提供の充実について(通知)(8高私参第8号)が発出されました。大学の資産運用ガイドブックの策定に合わせて、計算書類の注記事項と事業報告書の記載を令和8年度決算から見直す、という内容です。
経理・財務担当者に関係する変更は次の2点です。
| 変更点 | 対象書類 | 内容 | 位置づけ |
|---|---|---|---|
| 注記「有価証券の時価情報」の明細表を細分化 | 計算書類の注記事項(会計基準第40条) | 種類別内訳を4区分から11区分へ | 注記事項記載例の差し替え |
| 事業報告書「資産運用の状況」の充実 | 事業報告書 | 簿価・時価・差額の経年比較表と、収入全体に占める資産運用収入の割合の図表 | 「望ましい」(義務づけではない) |
適用は令和8年度決算(令和9年3月31日を末日とする決算)からです。令和7年度の決算は終了しているため、新しい記載例で実際に作るのは来年の決算です。ただし、対象となる令和8年度はすでに始まっています。期中のうちに準備しておくと、来年の決算作業が楽になります。この記事では、通知の中身と実務対応を整理します。
通知の位置づけ:記載例・参考例の差し替え
今回の見直しは、法令(学校法人会計基準や私立学校法施行規則)の条文改正ではありません。計算書類の注記事項の「記載例」と事業報告書の「参考例」を示している令和7年3月27日付通知「学校法人会計基準の一部改正に伴う計算書類の作成等について」(6高私参第27号)の別添を、新しいものに差し替える、という形式です。
- 注記事項記載例(令和7年通知の別添2)→ 本通知の別添3に差し替え
- 事業報告書及び附属明細書の参考例(令和7年通知の別添6)→ 本通知の別添4に差し替え
記載例・参考例は法令そのものではありませんが、筆者が決算分析で各法人の計算書類を見てきた範囲でも、注記はこの記載例の形式に沿って作成されています。監査対応の観点でも、来年の決算では新しい記載例が前提になると考えておくのが安全です。
変更点:注記の明細表が4区分から11区分へ
注記事項「15.その他財政及び経営の状況を正確に判断するために必要な事項」の「(1)有価証券の時価情報」は、総括表(①)と明細表(②)の2段構えです。今回細分化されるのは明細表(②)で、総括表とデリバティブ取引((2))の記載例に変更はありません。
これまでの明細表は、種類別の内訳が「債券・株式・投資信託・その他」の4区分だけでした。新しい記載例では、これが4グループ・11区分になります。
| グループ | 区分(新) |
|---|---|
| 債券 | 国内債券/外国債券/仕組債 |
| 株式 | 国内株式/外国株式 |
| 投資信託 | インデックスファンド(ETFを含む)/REIT(不動産投資信託)/その他 |
| その他 | プライベートエクイティ/プライベートデット/その他 |
区分ごとに貸借対照表計上額・時価・差額を記載する形は従来と同じです。時価のない有価証券が明細表の外に一行で載る形も変わりません。
注目は仕組債が独立の区分になったことです。ガイドブックと同時公表された「大学の資産運用実態把握等調査」(令和7年3月31日時点)では、調査に回答した学校法人609法人の運用対象資産10.3兆円のうち仕組債が1兆186億円を占め、調査資料自体が「大きな損失の可能性や流動性リスクがあるため、慎重に投資の可否を検討・判断する必要がある」と注意書きを付けていました。令和8年度決算からは、各法人が仕組債をいくら持ち、含み損益がどうなっているかが注記から直接読めるようになります。プライベートエクイティ・プライベートデットの明示も、オルタナティブ資産まで見据えたガイドブックの流れに沿った変更です。
実務で迷いそうな論点:どの区分に入れるか
新しい記載例が示しているのは表の形だけで、各区分の定義や商品の当てはめ基準は示されていません。実際の保有商品を並べてみると、たとえば次のような点で判断に迷いそうです。
- 国内債券と外国債券の分け方:発行体の所在地で分けるのか、通貨で分けるのか。たとえば国内の生命保険会社が発行する米ドル建て債券は「国内債券」と「外国債券」のどちらに入れるのか
- 仕組債の範囲:ノックイン条項付きのような典型的な仕組債は迷いませんが、既存の債券をリパッケージした外貨建ての固定利付債(リパッケージ債)まで「仕組債」として表示するのか
- 「インデックスファンド」の幅:S&P500のように広く分散された指数に連動するものも、構成銘柄がごく少数に絞られた指数(FANG+など)に連動するものも、同じ「インデックスファンド」でよいのか
- 私募REITの置き場所:上場REITと同じ「REIT(不動産投資信託)」区分に入れるのか、別の整理になるのか
- ヘッジファンド型の投資信託:絶対収益型・マルチストラテジー・ロングショートといった投資信託は、「投資信託」グループの「その他」なのか、「その他」グループの「その他」なのか
当てはめが法人ごとにばらつくと、せっかく細分化しても外部からの法人間比較はかえって難しくなります。今後、Q&Aなどで当てはめの基準が補足されるかどうかは現時点では分かりません。当面は、判断に迷う商品を期中に洗い出して、会計監査人と早めに擦り合わせておくのが現実的です。
変更点:事業報告書に経年比較と「収入に占める割合」
事業報告書の参考例「3.財務の概要(2)その他 ①資産運用の状況」は、項目自体は令和7年通知の参考例にもありました(運用目的・運用目標・運用方針・ガバナンス体制・本年度の運用の概況等)。今回はここに、次の注意書きと図表例が追加されました。
資産運用の中長期的な状況が明らかとなるよう、有価証券の貸借対照表計上額と時価情報の経年変化が一覧できる図表や、法人の収入全体に占める資産運用収入の割合が分かる図表を示すことが望ましい
図表例として示されたのは次の2つです。
| 図表例 | 内容 |
|---|---|
| 有価証券の経年比較表 | 貸借対照表計上額・時価・差額を5年度分並べる(時価のない有価証券を除く) |
| 資産運用収入の割合 | 資産運用収入(受取利息・配当金+有価証券売却差額)が法人の収入全体に占める割合の推移グラフ |
こちらは「望ましい」であって、記載しなければならないものではありません。ただ、参考例に図表付きで載った以上、開示の充実した法人とそうでない法人の差は外から見えやすくなります。ガイドブック本体でも、事業報告書で有価証券の時価情報や資産種類ごとの内訳を公表している国際基督教大学(ICU)の例が「積極的な情報開示によるガバナンス」として紹介されており、今回の参考例はその方向を全法人向けの型にしたものといえます。
実務対応:期中のいまやっておきたいこと
令和8年度決算に向けて、担当者レベルで準備できることを挙げます。
- 保有有価証券の一覧に新区分を割り当てる:銘柄ごとに「国内債券/外国債券/仕組債/…」のタグを付けておけば、決算時は集計するだけになります。区分の判断に迷う商品はこの段階で洗い出し、会計監査人に相談しておきます
- 経年比較表の過年度データを整理する:過去の計算書類の注記(総括表)から、貸借対照表計上額・時価・差額を年度別に転記すれば作成できます。過去5年分の決算書が手元にあれば作業は難しくありません
- 資産運用収入の割合を試算する:受取利息・配当金と有価証券売却差額は事業活動収支計算書から拾えます。数年分を先に計算しておくと、図表化の要否を法人内で判断する材料になります
- 事業報告書の記載方針を決める:「望ましい」とされた図表をどこまで載せるかは法人の判断です。理事会・評議員会の日程が詰まる決算期より、期中に方針を決めておくほうが落ち着いて対応できます
決算書のどこに有価証券が計上され、注記とどうつながっているかの基本は、別記事(私立大学の貸借対照表に「有価証券」がない?)で解説しています。
決算書の読み手にとっての意味
当ブログでは、私大の決算比較で各法人の注記「有価証券の時価情報」を使い、含み損益の二極化(債券中心の法人の含み損と、株式・投資信託を持つ法人の含み益)を追いかけてきました。現行の明細表は4区分のため、「債券のどの部分が含み損なのか」「投資信託の中身は何か」までは注記だけでは分かりませんでした。
令和8年度決算(2027年夏に各法人が公表する計算書類)からは、国内債券と外国債券、仕組債が分かれて開示されます。どの法人がどの資産クラスで含み損益を抱えているかを、外部からより正確に読めるようになるはずです。学校法人の財務分析にとっても節目の変更であり、当ブログでも公表が始まり次第、新しい注記での比較を取り上げる予定です。
まとめ
- 令和8年7月22日付通知(8高私参第8号)により、令和8年度決算から計算書類の注記と事業報告書の記載が見直されます
- 注記「有価証券の時価情報」の明細表は4区分から11区分へ細分化。仕組債・プライベートエクイティ・プライベートデットが独立区分になります
- 事業報告書には簿価・時価・差額の経年比較表と資産運用収入割合の図表を示すことが「望ましい」とされました(義務づけではありません)
- 各区分の定義・当てはめ基準は示されていません。判断に迷う商品(国内発行体の外貨建て債券・リパッケージ債・私募REITなど)は会計監査人と早めの擦り合わせを
- 保有銘柄への区分割り当て・過年度データの整理など、期中から準備できる作業があります
関連記事です。通知の背景となったガイドブック全体のポイントはこちらで解説しています。

計算書類の注記事項の全体像(何を・どこまで書くか)はこちらにまとめています。

学校法人会計・大学財務の記事の一覧は、こちらのガイドからどうぞ。

出典・注記
- 令和8年7月22日付け8高私参第8号「「大学の資産運用の促進・高度化に向けたガイドブック」の策定及び学校法人会計における有価証券の時価情報等に関する情報提供の充実について(通知)」(PDF)・文部科学省「学校法人会計基準」ページ。明細表の細分化は同通知の別紙・別添3、事業報告書の図表例は別紙・別添4によります
- 従来の記載例・参考例は令和7年3月27日付け6高私参第27号「学校法人会計基準の一部改正に伴う計算書類の作成等について(通知)」(PDF)の別添2・別添6によります
- 仕組債の保有額(1兆186億円)と注意書きは、「大学の資産運用の促進・高度化に向けたガイドブック」参考資料①「大学の資産運用実態把握等調査」の結果(令和7年3月31日時点・学校法人609法人回答)p.16-17によります。国際基督教大学の開示事例はガイドブック本体p.47によります
- 本記事は通知の発出時点(令和8年7月)の情報に基づいています。適用にあたっては通知本文および所轄庁・会計監査人の指示をご確認ください
