私立大学の「経営状況」は、入試の偏差値や知名度とは別の角度から見ることができます。各学校法人が毎年公開している決算書(計算書類)と事業報告書には、その大学が1年間でどれだけの収入を得て、何にお金を使い、どれだけ資産を蓄えているかが数字で示されています。
早慶やMARCHの財務は取り上げられることがありますが、日東駒専(東洋・駒澤・専修・日本大学)の4法人を横並びにした決算比較はあまり見かけません。この記事では、この4法人の2025年度(令和7年度)決算を、同じものさしで比較します。数字はすべて各校が公開している決算書・事業報告書から取得し、日本私立学校振興・共済事業団(以下、私学事業団)が用いる標準的な算式で揃えました。
結論:4法人を主要指標で早見する
先に大づかみの結論です。4法人の主要指標を一覧にしました(億円は四捨五入、比率は小数第1位。含み損益は決算書注記②「有価証券の時価情報」明細表の時価と簿価の差)。
| 指標 | 東洋 | 駒澤 | 専修 | 日大 |
|---|---|---|---|---|
| 事業活動収入計 | 549.3億 | 235.1億 | 281.2億 | 2,092.1億 |
| 総資産 | 2,701.6億 | 1,064.1億 | 1,405.3億 | 7,888.2億 |
| 事業活動収支差額比率 | 6.5% | 6.3% | 4.6% | △1.4% |
| 基本金組入後収支比率 | 97.6% | 97.9% | 101.5% | 106.0% |
| 含み損益(注記②) | +48.2億 | △5.7億 | △0.3億 | △115.1億 |
| 流動比率 | 285.2% | 109.9% | 133.6% | 121.2% |
| 純資産構成比率 | 92.3% | 83.1% | 87.1% | 81.2% |
ポイントを3つに絞ると、次のとおりです。
- 収支の余裕では、東洋・駒澤が6%台で高く、日本大学が4法人で唯一マイナスでした。日大は臨時の特別支出が重く、基本金組入前で約29億円の支出超過です。
- 2025年度末の含み損益(時価と簿価の差)に、運用スタイルの違いがはっきり表れました。金銭信託系で運用する東洋だけが含み益(+48.2億円)、債券中心の駒澤・専修・日大は含み損という対照的な結果です。これは関東10校の比較でも見られた構図が、中堅規模の私大でも成り立つことを示しています。
- 財務の手厚さ(安全性)は東洋が突出。流動比率285.2%は他3校の2倍を超え、固定比率も4法人で唯一100%を下回りました。
以下、「収支構造(稼ぎ方・使い方)」「資金運用(資産の活かし方)」「財務体力(安全性)」の3つの切り口で見ていきます。
収支構造で見る4法人:稼ぎ方と使い方

事業活動収支差額比率:日大だけがマイナス
事業活動収支差額比率=基本金組入前当年度収支差額 ÷ 事業活動収入
基本金組入前の収支差額が事業活動収入に占める割合で、プラスが大きいほど当年度の収支に余裕があることを示します。
| 高い順 | 比率 | 組入前収支差額(絶対額) |
|---|---|---|
| 東洋 | 6.5% | +35.7億円 |
| 駒澤 | 6.3% | +14.8億円 |
| 専修 | 4.6% | +12.9億円 |
| 日本大学 | △1.4% | △29.4億円 |
東洋・駒澤が6%台で高く、日本大学は4法人で唯一マイナスでした。日大のマイナスは、特別支出約117.6億円(後述の賞与引当金特別繰入81.5億円や過年度修正等)が主因です。この臨時要因が大きい点は、関東10校の比較でも確認した内容と一致します。前述のとおり、単年度の高低だけで優劣は断じられません。
基本金組入後の姿:専修の当年度赤字は「積立の結果」
基本金組入後収支比率=事業活動支出 ÷(事業活動収入 − 基本金組入額)
100%を超えると、当年度は基本金組入を含めて収支がマイナスだったことを意味します。校舎建設など大型投資や積立を厚くした年は高くなります。
| 法人 | 基本金組入後収支比率 | 当年度収支差額(組入後) |
|---|---|---|
| 東洋 | 97.6% | +12.8億円 |
| 駒澤 | 97.9% | +4.8億円 |
| 専修 | 101.5% | △4.0億円 |
| 日大 | 106.0% | △119.3億円 |

ここで注意したいのが専修です。当年度収支差額は△4.0億円ですが、これは基本金組入額16.8億円(基本金組入率6.0%は4法人で最も厚い)を行った結果です。組入前は+12.9億円の黒字であり、将来に向けた資産形成を当年度に厚めに行った姿であって、収益力が不足しているわけではありません。この比率が高い=経営が悪い、ではない点は、繰り返し確認しておきたいところです。
学納金・人件費に見る日大の「別カテゴリ」
授業料などへの依存度と、人件費のバランスを見ます。ここで使う4つの比率の算式は次のとおりです。
学生生徒等納付金比率=学生生徒等納付金 ÷ 経常収入
人件費依存率=人件費 ÷ 学生生徒等納付金
人件費比率=人件費 ÷ 経常収入
教育研究経費比率=教育研究経費 ÷ 経常収入
いずれも事業活動収支計算書の数字から計算します。名前の似た2つの人件費指標のうち、人件費依存率だけは分母が納付金(人件費を授業料等の収入だけでまかなえているか)で、ほかの3つは分母が経常収入です。
| 比率 | 東洋 | 駒澤 | 専修 | 日大 |
|---|---|---|---|---|
| 学生生徒等納付金比率 | 70.8% | 72.4% | 75.7% | 53.8% |
| 人件費依存率 | 61.2% | 62.9% | 67.5% | 83.4% |
| 人件費比率 | 43.3% | 45.5% | 51.1% | 44.9% |
| 教育研究経費比率 | 43.7% | 41.2% | 35.6% | 47.7% |



東洋・駒澤・専修は学生生徒等納付金比率が70%台にそろう「授業料型」です。一方、日大だけが53.8%と低く、代わりに人件費依存率(人件費÷納付金)が83.4%と4法人で唯一80%台に乗ります。これは、日大の経常収入に医療収入が加わって分母が膨らむことが背景にあります。日大の教育研究経費比率が最も高い(47.7%)のも、医療経費約217.5億円を含むためです。医療事業を持つかどうかで、収支構造そのものが変わることが読み取れます。
なお人件費比率は専修のみ51.1%と50%を超え、労働集約型の目安(50%前後)の上限に位置します。
資金運用で見る4法人:含み損益に表れた運用スタイルの差
私立大学は授業料収入だけでなく、蓄えた資産(特定資産・有価証券)を運用して得る収益も重要な財源です。ここで日東駒専でも、運用スタイルの違いが含み損益にはっきり表れました。

| 法人 | 注記②簿価 | 注記②時価 | 含み損益 | 運用の中心 |
|---|---|---|---|---|
| 東洋 | 295.3億 | 343.5億 | +48.2億 | 「その他」=ほぼ金銭信託(事業報告書) |
| 駒澤 | 70.2億 | 64.5億 | △5.7億 | 債券59.1億中心 |
| 専修 | 4.2億 | 4.0億 | △0.3億 | 満期保有債券のみ(運用規模小) |
| 日大 | 1,158.6億 | 1,043.5億 | △115.1億 | 債券99.6%(ほぼ満期保有公共債) |
東洋だけが金銭信託系で含み益(+48.2億円)、駒澤・専修・日大は債券系で含み損という対照的な結果です。債券中心の含み損については、満期まで持てば額面で償還されるため、評価上の含み損がただちに損失となるわけではない点に注意が必要です。関東10校の比較でも、日本大学は事業報告書で「評価差額(含み損)の主因は金利上昇によるものであり、信用リスクの悪化によるものではない」と明記していました。ただし各法人とも組入銘柄(どの債券か、金銭信託の中身が何か)までは公表しておらず、含み損益が何によって生じたかの内訳は特定できません。
「有価証券は貸借対照表本表でなく注記で見る」の意味がよく分かる駒澤
決算書を読むときに見落としやすいのが、有価証券の見る場所です。駒澤の貸借対照表(BS)本表の有価証券は1.29億円(固定1.19億+流動0.10億)にとどまりますが、注記②の有価証券合計は70.2億円。乖離は約55倍です。差の大半は、減価償却引当・退職給与引当・第2号基本金引当などの特定資産の内側で債券運用されているためで、BS本表だけを見ると運用の実態を大きく見落とします。この債券は簿価59.1億円に対し時価53.5億円で、含み損△5.7億円。金利上昇局面での満期保有債券という、日大・中央と同じ姿です。
同じ現象は東洋にも見られます。東洋のBS本表の有価証券はわずか約2,037万円(時価のない有価証券のみ)ですが、注記②の簿価は295.3億円。運用のほとんどは特定資産の内側にあり、注記上の種類は「その他」です。この中身について東洋の事業報告書は「保有する有価証券のほぼすべてが金銭信託の形態をとっています」(財務の概要「資産運用の状況」)と説明しており、そこに+48.2億円の含み益が乗っています。ただし金銭信託の組入銘柄までは非開示のため、何が含み益を生んだかの特定はできません。

専修の「隠れ外貨資産」
専修は有価証券そのものの運用規模は小さい(満期保有目的の債券4.0億円ほか)のですが、別の特徴があります。特定資産の定期預金に米ドル建で2,156.5万ドルを保有しており、計上額23.5億円が年度末換算で34.2億円になっています(差額10.8億円)。この外貨資産は有価証券の注記ではなく特定資産の定期預金に含まれているため、有価証券欄だけを見ると見落とします。なお、この換算差額が損益計算書にどう反映されているかは手元資料からは確定できないため、ここでは保有事実と換算上の差額の指摘にとどめます。
受取利息・配当金:医療事業を持たない東洋が厚い
| 順位 | 受取利息・配当金 |
|---|---|
| 日大 | 26.7億円 |
| 東洋 | 19.8億円 |
| 専修 | 2.3億円 |
| 駒澤 | 1.7億円 |

絶対額では規模の大きい日大が最多ですが、注目したいのは東洋の19.8億円です。医療事業を持たない私大でありながら厚いのは、注記②簿価295.3億円という運用資産が効いているためです。東洋の事業報告書も、受取利息・配当金収入が前年度比7億2,600万円増加したと説明しています。駒澤・専修は運用インカムが小さく、運用スタイルの違いがここにも表れています。
特定資産と第3号基本金の厚み
先ほど触れた特定資産(使途を定めて別枠で管理する資産)の合計と、その一種である第3号基本金引当特定資産(元本を取り崩さず、運用益で奨学金や研究といった事業を支える基金)の残高も並べておきます。絶対額では日大が特定資産約3,103億円・第3号約893億円と桁違いです。総資産に対する第3号の割合で見ても日大の11.3%が突出し、東洋4.2%・専修1.9%・駒澤1.0%と続きます。


財務体力で見る4法人:東洋の安全性が突出

貸借対照表の安全性指標を並べると、東洋の手厚さが際立ちます。ここで使う比率はすべて貸借対照表の数字から計算します。
流動比率=流動資産 ÷ 流動負債
純資産構成比率=純資産 ÷ 総資産
総負債比率=総負債 ÷ 総資産
固定比率=固定資産 ÷ 純資産
流動比率は高いほど短期の支払余力が厚く、純資産構成比率は高いほど(総負債比率は低いほど)負債の軽い体質です。固定比率は低いほど健全で、100%未満なら校舎などの固定資産を自己資金の範囲でまかなえていることを示します。
| 比率 | 東洋 | 駒澤 | 専修 | 日大 |
|---|---|---|---|---|
| 流動比率 | 285.2% | 109.9% | 133.6% | 121.2% |
| 純資産構成比率 | 92.3% | 83.1% | 87.1% | 81.2% |
| 総負債比率 | 7.7% | 16.9% | 12.9% | 18.8% |
| 固定比率 | 95.6% | 107.6% | 107.8% | 114.6% |
流動比率285.2%は他3校の2倍超で、短期の支払余力が際立ちます(現金預金の厚みが背景)。純資産構成比率92.3%・総負債比率7.7%も4法人でそれぞれ最も手厚く、負債の軽さが分かります。固定比率が4法人で唯一100%を下回る(95.6%)のも東洋です。なお固定長期適合率(=固定資産 ÷(純資産+固定負債))は4法人とも100%未満(92.1〜98.9)で、固定資産は自己資金+固定負債の範囲に収まっています。ここに運用の含み益48.2億円が乗るため、財務の安全性という点では東洋が4法人で最も手厚いと言えます。
日大は負債構成が4法人で最も重く出ますが、規模が10倍近く違い医療事業の性格も異なるため、この点も単純な優劣比較はしません。
一方で、東洋には減価償却額比率13.9%という特徴もあります(他3校は8〜10%台)。これは過去から近年の設備投資に伴う償却負担が相対的に大きいことを示唆しますが、どの投資によるものかまでは事業報告書での裏取りを行っていないため、原因の断定は避けます。
まとめ:中堅私大でも「経営の個性」は数字に出る
2025年度の日東駒専4法人を見てきました。あらためて要点です。
- 日東駒専でも「運用スタイル=含み損益」の二極化が成立 ―― 金銭信託系の東洋だけが含み益(+48.2億円)、債券系の駒澤・専修・日大は含み損。関東10校と同じ構図が中堅規模でも見えました。
- 4法人で日本大学だけが事業活動収支差額比率マイナス(△1.4%・組入前△29.4億円)。特別支出約117.6億円(賞与引当金特別繰入81.5億円等)が主因で、臨時要因が大きい単年度の姿です。
- 財務体力は東洋が突出 ―― 流動比率285.2%・純資産構成比率92.3%・総負債比率7.7%、そして固定比率は4法人で唯一100%未満。運用の含み益も乗ります。
- 「有価証券は貸借対照表本表でなく注記で見る」の意味がよく分かるのが駒澤 ―― BS本表1.29億円に対し注記②合計70.2億円(乖離は約55倍)。運用の全体像は注記②明細表で確認するのが確実です。
- 専修の当年度赤字は「積立の結果」 ―― △4.0億円は基本金組入16.8億円を厚めに行った結果で、組入前は+12.9億円の黒字。収益力の不足ではありません。
偏差値やブランドだけでは見えない「経営の個性」が、決算書には表れています。志望校選びや、学校法人の経理・財務に携わる方の比較材料として参考になれば幸いです。
日本大学の運用(債券中心・含み損の主因が金利上昇である点など)は、早慶やMARCHを含む関東10校の比較記事でより詳しく取り上げています。日大の位置づけを他の有名私大の中で見たい方は、関東10校の2025年度決算比較もあわせてご覧ください。

同じ4法人くくりでは、関西の産近甲龍(京都産業・近畿・甲南・龍谷)の2025年度決算も比較しています。中堅私大の財務を関東・関西で見比べたい方はあわせてご覧ください。関西の大手5法人(関関同立+近大)は、関西5法人の比較記事で扱っています。

決算書の読み方や財務比率の意味をまとめた記事の一覧は、こちらのガイドからたどれます。

出典・注記
- 数値はすべて各学校法人が公開している2025年度(令和7年度)決算書(計算書類)および事業報告書より取得。各校の情報公開ページは以下のとおりです。
- 東洋:学校法人東洋大学 財務情報
- 駒澤:学校法人駒澤大学 財務報告
- 専修:学校法人専修大学 法人概要
- 日本大学の数値は関東10校の比較記事で用いたものと同一です(詳細は同記事の出典を参照)。
- 比率は私学事業団の算式に準拠して算出。各比率の算式は私学事業団財務比率一覧(PDF)を参照。事業報告書に財務比率の記載がある法人は公表値と突合し一致を確認しています。
- 含み損益は決算書注記「有価証券の時価情報」②明細表における時価と貸借対照表計上額(簿価)の差。満期保有目的の債券は満期償還で額面が戻るため、評価上の含み損が確定損失となるわけではありません。
- 有価証券・外貨資産の組入銘柄(金銭信託・「その他」の中身、米ドル建資産の運用内訳)は各法人とも非開示のため、含み損益・保有の事実は述べても中身の特定はしていません。
- 改正学校法人会計基準(令和6年文部科学省令第28号・2025年4月施行)初年度の賞与引当金の期首計上は、4法人すべてで確認しています(専修は科目名「過年度修正額」で、注記「会計方針の変更」に期首計上分828,503,091円の記載あり)。
- 関東10校・関西5法人の比較記事に掲載している運用利回りの図(インカム利回り・トータルリターン)は、本記事では見送りました。トータルリターンの算出に必要な前年度の時価データが東洋・駒澤・専修の3法人で揃わないことと、専修は受取利息の源泉が有価証券以外(外貨建定期預金等)にもあり利回りの分母と対応がとれないことが理由です。
- 億円表記は四捨五入。比率は小数第1位。
