学校法人の収支予算書に法定様式はない――根拠条文と、法人ごとに違う理由

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予算編成の時期に、他の学校法人が公開している収支予算書を見ると、欄の名前も並び順も自法人と違っていて戸惑うことがあります。「正しい様式」を探しても、決算書の第一号様式のようなものは見つかりません。

結論から言うと、見つからないのが正しい状態です。収支予算書には作成義務も提出義務もありますが、その様式を定めた法令が存在しません。本記事では、学校法人の経理部・財務部向けに、その根拠条文と、結果として法人ごとに予算書の形が変わっている実態を整理します。

本記事で確認したのは「法令上は様式が定められていない」という点です。所轄庁が独自に様式を示している場合があり、知事所轄の学校法人はそちらに従うことになります(後述)。

目次

結論の早見表

項目根拠条文様式の定め
作成義務(すべての学校法人)私立学校法第99条なし(省令への委任文言もない)
作成義務(補助金の交付を受ける法人)私立学校振興助成法第14条第1項なし(「収支予算書」という名称のみ)
提出義務(同上・決算後3月以内に翌年度分)同法第14条第4項なし(後述のとおり委任は提出の方法について)
決算書に予算額を併記学校法人会計基準第26条・第28条・第30条・第35条決算書の様式(第一号〜第八号様式)としてあり
所轄庁が示す様式各所轄庁の通知等東京都は様式を指定(知事所轄法人向け

決算書のとじ込み順序については「計算書類のとじ込み順序」で、決算全体の日程は「決算スケジュール逆算カレンダー」で解説していますので、合わせてご覧ください。

「予算」が出てくる条文はこれだけ

私立学校法:全242条のうち2か条のみ

現行の私立学校法で「予算」の語を含む条文は、第36条と第99条の2つだけです。

第九十九条(予算及び事業計画) 学校法人は、毎会計年度、予算及び事業計画を作成しなければならない。

作成義務はこの一文のみで、記載事項も様式も書かれていません。注目したいのは、「文部科学省令で定めるところにより」という委任文言が置かれていないことです。様式を省令に落とすための根拠規定が、条文上そもそも用意されていません。

もう一方の第36条は手続の規定で、「予算及び事業計画の作成又は変更」を理事に委任できない事項(第3項第六号)とし、理事会がこれを決定するときはあらかじめ評議員会の意見を聴かなければならない(第4項)としています。誰がどう決めるかは定めるが、何をどう書くかは定めていないという構図です。

学校法人会計基準:8回出てくる「予算」は、すべて決算書の話

学校法人会計基準で「予算」の語を含むのは、全54か条のうち次の4か条だけです。

記載内容
第26条事業活動収支計算書には、科目ごとに当該会計年度の決算の額を予算の額と対比して記載する
第28条収支差額・経常収支差額・基本金組入前当年度収支差額・基本金組入額・当年度収支差額を、それぞれ予算の額と対比して記載する
第30条翌年度繰越収支差額を予算の額と対比して記載する
第35条資金収支計算書には、科目ごとに当該会計年度の決算の額を予算の額と対比して記載する

いずれも「決算書に予算欄を設けなさい」という趣旨で、予算そのものをどう作るかには触れていません。

ここに制度の非対称があります。決算書の様式は第一号様式から第八号様式まで省令で細かく定められ、文部科学省がExcelファイルまで公開しています。一方で、その決算書に並べて書くことになっている予算の側には、様式が用意されていません

私立学校振興助成法:決まっているのは「名前」だけ

補助金の交付を受ける学校法人には、私立学校法とは別に、助成法第14条による義務がかかります。同条は項ごとに性格が違うため、分けて読む必要があります。

内容省令への委任
第1項助成対象学校法人は、収支予算書を作成しなければならないなし
第2項計算書類・附属明細書について公認会計士等の監査を受ける(会計監査人設置法人等を除く)なし
第3項監査報告の作成あり(監査報告について)
第4項計算書類等並びに翌会計年度の収支予算書に監査報告を添付して、決算後3月以内に所轄庁に提出しなければならないあり(後述)

第1項で初めて「収支予算書」という名称が法令上に現れます。ただしここでも、記載事項や様式の定めはなく、省令への委任もありません。

第4項には「文部科学省令で定めるところにより」という委任文言があります。ただし、この文言がかかるのは文末の述語「提出しなければならない」です。つまり委任されているのは提出の方法であって、収支予算書の作成方法や様式ではありません。

第4項の委任は計算書類だけに限定されているわけではなく、収支予算書も提出の対象に含まれます。後述の施行規則第2条も「法第十四条第四項の規定による所轄庁への書類の提出は」と受けています。しかし、あくまで提出という行為についての委任であり、予算書の様式を定める根拠にはなっていません。

施行規則が定めた様式も、中身は「決算の額」

第4項の委任を受けた省令が、私立学校振興助成法施行規則(令和6年文部科学省令第29号・令和7年4月1日施行)です。同規則は提出時の添付書類を定め、その様式を指定しています。

スクロールできます
添付書類様式記載する金額
第3条事業活動収支内訳表第一号様式決算の額 部門ごとに区分
第4条資金収支内訳表第二号様式決算の額 部門ごとに区分
第5条人件費支出内訳表第三号様式決算の額の内訳

様式が定められた3表は、条文上いずれも「決算の額」を部門ごとに区分して記載するものです。同規則で「予算」の語が出てくるのは3か所のみで、様式の指定を伴うものはひとつもありません。

収支予算書は所轄庁に提出しなければならない書類であるにもかかわらず、その様式だけが定められていない、というのが現行制度の姿です。

所轄庁が独自に様式を示している場合がある

法令に様式がない一方で、所轄庁が通知で様式を示している例があります。

東京都は「私立学校振興助成法第14条の規定に基づく収支予算書の提出について(通知)」(令和7年5月12日・7生私行第419号)で、収支予算書の様式を指定しています(東京都生活文化局 学校法人会計)。改正法の施行に対応した最新版です。

ここで所轄庁の区分が関係します。都道府県が示す様式は、その知事が所轄する学校法人に向けたものです。大学を設置する法人など文部科学大臣所轄の学校法人には、この様式が及びません。そして文部科学省は、決算書の様式(第一号〜第八号様式)は公開していますが、収支予算書の様式・記載例は示していません。

結果として、規模の大きい大臣所轄法人ほど、予算書の形が自由になります

本記事で実際に確認したのは東京都の通知です。他の道府県が同様の様式を示しているかどうかは確認していません。知事所轄の法人は、自法人の所轄庁の通知を確認してください。

公開されている予算書の欄は、これだけ違う

制度がそうである以上、実際の予算書の形は法人ごとに分かれます。各法人がウェブサイトで公開している補正予算書から、欄の構成を抜き出したものが次の表です(いずれも公開PDFの本文を確認しています)。

法人書類名欄の並び
東京理科大学資金収支予算書補正予算額/予算額/増・減(△)
日本大学事業活動収支補正予算書当初予算額/補正予算額/合計額
京都産業大学資金収支補正予算書補正後予算/当初予算/補正額
専修大学事業活動収支補正予算書当初予算額/補正予算(増減)/補正後予算額
成城学園事業活動収支補正予算書当初予算額/補正額/補正予算額
甲南学園資金収支予算書当初予算/補正額/補正後予算
武蔵学園資金収支補正予算書当初予算/補正額/補正予算
國學院大學事業活動収支補正予算書補正予算/予算/増減

太字にした欄は、いずれも「補正を反映した後の金額」という同じものを指しています。それが「合計額」「補正後予算」「補正予算額」「補正予算」と、4通りの名前で呼ばれています。

欄の並び順も統一されていません。補正後の金額を左端に置く法人(京都産業大学)もあれば、右端に置く法人(日本大学・専修大学・成城学園・甲南学園・武蔵学園)もあります。書類の名前自体も、中身が補正予算であっても「資金収支予算書」とだけ書く法人(東京理科大学・甲南学園)があります。

どれかが誤りというわけではありません。基準となる様式が存在しないため、どれも正しいというのが実態です。

実務上、何を手がかりにするか

様式がないとはいえ、まったくの白紙ではありません。次の3点が実務上の手がかりになります。

決算書の科目に合わせる。 学校法人会計基準第26条・第35条により、決算書には科目ごとに予算額を併記します。予算の科目立てが決算書とずれていると、決算時に対比表が作れません。予算書の科目は、決算書の様式に合わせておくのが自然です。

当初か補正後かを、書類の上で明示する。 上の表のとおり、同じ「予算」という語が当初予算を指す法人もあれば、書類名に補正と書かない法人もあります。理事会・評議員会に諮る資料や、外部に公開する資料では、どの時点の予算かが読み取れるようにしておくと誤読を防げます。

知事所轄法人は所轄庁の様式を確認する。 所轄庁が様式を示している場合は、法令に定めがなくてもそれに従うことになります。提出時期(決算後3月以内)とあわせて、所轄庁の通知を確認してください。

なお、予算及び事業計画の作成・変更は理事に委任できず、理事会が決定する際にはあらかじめ評議員会の意見を聴く必要があります(私立学校法第36条第3項第六号・第4項)。ただし、寄附行為で意見聴取に代えて評議員会の決議を要する定めを置くことも認められているため、自法人の寄附行為の確認が必要です。

決算後の公表・備置き・閲覧の実務は「計算書類・財産目録等の公表義務」で整理しています。

出典・注記

条文の確認にはe-Gov法令検索の現行条文を用いています(2026年8月時点)。各法人の予算書の欄構成は、各法人がウェブサイトで公開しているPDFの本文を確認したものです。

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この記事を書いた人

学校法人の財務・経理に10年以上従事。予算・決算、資金運用、学費を担当。各法人が公開している計算書類・事業報告書をもとに、私学の財務を分析しています。

資格:日商簿記2級、FP2級、TOEIC L&R 920点
投資:インデックス投資中心に10年以上(投資信託・米国株・暗号資産)

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