2025年度(令和7年度)決算から、改正学校法人会計基準(令和6年文部科学省令第28号)が適用され、計算書類の注記に「セグメント情報」が加わりました。制度としての書き方は別記事「セグメント情報の注記の書き方」に整理しましたが、2026年6月末〜7月にかけて各法人の決算書が出そろい、初年度の実例を確認できるようになりました。
本記事では、関東・関西の主要私大15法人(早慶上理・MARCH・日大・関関同立近)が公表した2025年度計算書類のセグメント注記を横断で確認しました。結論から言うと、同じ基準の初年度でも、区分の切り方・配分方法・医学部の扱いは法人ごとにかなり割れています。他法人の実例を参考にしたい実務担当者向けに、要点を早見表と6つの観察にまとめます。
早見表:15法人のセグメント注記はこうなった
| 法人 | セグメント区分(表の列) | 配分方法 |
|---|---|---|
| 早稲田大学 | 大学/中学校・高等学校・専修学校/学校法人部門 | 昭和55年通知 |
| 慶應義塾 | 大学(うち、医学部及び大学付属病院)/一貫教育校/その他 | 新基準(経済実態を表す配分基準) |
| 上智学院 | 大学・短期大学部/中学校・高等学校/学校法人 | 昭和55年通知 |
| 東京理科大学 | 表示省略(「その他」以外に一のみ) | ― |
| 明治大学 | 大学/中学校・高等学校/学校法人 | 昭和55年通知 |
| 青山学院 | 青山学院大学/幼稚園・小学校・中学校・高等学校/学校法人部門 | 昭和55年通知 |
| 立教学院 | 立教大学/小学校・中学校・高等学校/学校法人部門 | 昭和55年通知 |
| 中央大学 | 中央大学/中学校・高等学校/学校法人 | 昭和55年通知 |
| 法政大学 | 法政大学/中学校・高等学校/学校法人部門 | 昭和55年通知 |
| 日本大学 | 大学・短期大学/幼稚園〜専修学校等/その他 | 昭和55年通知 |
| 関西大学 | 関西大学/幼稚園・小学校・中学校・高等学校/学校法人部門 | 昭和55年通知 |
| 関西学院 | 関西学院大学/関西学院短期大学/小・中・高等学校等/学校法人部門 | 昭和55年通知 |
| 同志社 | 大学(同志社大学+同志社女子大学)/幼稚園・小・中・高等学校/学校法人部門 | 昭和55年通知 |
| 立命館 | 立命館大学/立命館アジア太平洋大学/高・中・小学校/その他 | 予算単位への配分基準 |
| 近畿大学 | 大学(うち、医学部及び附属病院)/短期大学/高等専門学校/高等学校・中学校/小学校・幼稚園・専修学校等/病院/その他 | 昭和55年通知 |
出典はいずれも各学校法人が公表する2025年度計算書類の注記「8.セグメント情報」です(各法人の財務情報公開ページで閲覧できます)。セグメント情報の根拠は学校法人会計基準第40条第1項第8号、詳細な取り扱いは6高私参第27号通知(令和7年3月27日)の「第二 セグメント情報について」に定められています。
配分方法は「経過措置」が圧倒的多数
新基準では、共通経費を在籍者数・職員数・使用面積などの経済実態を表す配分基準で各セグメントに配分することとされていますが、この配分基準の適用は令和9年度からで、令和7・8年度は従来の昭和55年通知(文管企第250号)の方法でもよいという経過措置があります(27号通知 第二5(3))。
実例では、セグメントを表示した14法人のうち12法人が昭和55年通知方式を注記しました。新基準の配分基準を明記したのは慶應義塾だけです(「令和7年3月27日付6高私参第27号通知に基づき、経済実態を表す配分基準を適用している」と注記)。立命館は「予算の編成・管理のための各予算単位への配分基準を用いている」という独自の書き方で、どちらの型にもそのまま当てはまらない表現でした。
初年度は経過措置を使うのが主流だった、というのが実務上の大きな安心材料だと思います。どちらを適用したかの注記は、セグメント情報を表示した14法人がいずれも書いています(経過措置利用時の要件です。表示を省略した東京理科大は対象外)。
セグメントを「表示しない」実例もある
東京理科大学は、注記に「設定すべきセグメントが、セグメント『その他』以外に一のみであるため、省略している。」とだけ書き、表自体を載せていません。
設置校が実質的に大学のみの法人では、「その他」(学校法人部門)以外のセグメントが1つしかないため、その旨を注記すれば表示を省略できます(27号通知 第二5(2)、文科省Q&A(6))。単一大学の法人はこの省略規定を使えるかどうかをまず確認するとよいと思います。
「大学」セグメントの切り方は法人ごとに違う
大学・短期大学・高等専門学校は「学校ごと」にセグメントを設定するのが原則ですが、初年度は集約も認められています(27号通知 第二5(4))。実例は見事に割れました。
- 立命館:立命館大学と立命館アジア太平洋大学を別セグメントに(原則どおり)
- 同志社:同志社大学と同志社女子大学を1つの「大学」に集約
- 日本大学:大学と短期大学部を合体して「大学・短期大学」
- 関西学院:短期大学を独立させて4区分
- 上智学院:大学と短期大学部をまとめて「大学・短期大学部」
複数の大学・短大を持つ法人は、初年度をどう乗り切ったかの参考になります。ただし集約は経過措置なので、こちらも令和9年度以降は学校ごとの区分に移る前提で見ておく必要があります。
医学部・附属病院の「うち書き」対応は3様
医学部を持つ法人は、医学部と一体的に取り扱う附属病院を「うち、医学部等及び附属病院」として大学セグメントの内数で表示することとされています(27号通知 第二3)。医療系を持つ3法人の対応はそれぞれ違いました。
- 慶應義塾:通知どおり内数表示。大学セグメントの教育活動収入1,867億円のうち、医学部及び大学付属病院が1,061億円と、大学セグメントの収入の過半を医学部・病院が占めることが読み取れます
- 近畿大学:内数表示に加え、医学部と一体でない近畿大学奈良病院を独立の「病院」セグメント(教育活動収入181億円)として表示。内数側の医学部及び附属病院は経常収支差額△49億円で、医療中核部門の赤字が初めて外から見える形になりました
- 日本大学:日本大学病院・板橋病院・歯科病院・松戸病院を「大学・短期大学」セグメントに含めた旨を注記したうえで、内数表示は行っていません
初めて見える「学校法人部門」の数字
セグメント情報の副産物として、これまで外部からは見えなかった法人本部(学校法人部門)の収支が数字で見えるようになりました。どの法人も学校法人部門の教育活動収支は赤字(本部コストなので当然です)ですが、面白いのは資産運用益(教育活動外収支)をどのセグメントに計上しているかが法人によって違うことです。
- 慶應義塾:「その他」の教育活動外収支差額+86億円
- 立命館:「その他」に+56億円
- 上智学院:「学校法人」に+28億円。この結果、学校法人部門の経常収支差額+21億円が大学・短期大学部門の+10億円を上回り、運用が経営を支える構造がセグメント表に表れています
- 早稲田大学:一方こちらは大学セグメントに教育活動外収支+46億円を計上(学校法人部門は+5億円)
資金運用を法人本部で一元管理しているか、大学部門の資産として持っているかという内部管理の実態が、配分の結果に表れているように見えます。大学単体の「稼ぐ力」をセグメントで読むときは、運用益がどこに計上されているかを先に確認しないと見誤ります。
名称や注記の細部も割れている
- 法人部門セグメントの名称:「学校法人部門」(早稲田・青学・立教・法政・関大・関学・同志社)、「学校法人」(上智・明治・中央)、「その他」(慶應・日大・立命館・近大)の3通りに割れました。通知上の原則は「その他」で、学校法人部門しか含まれない場合は名称変更が認められているため(27号通知 第二2(6)(7))、どれも通知の範囲内です
- 各セグメントに含まれる部門名称の列挙:大半の法人は「『中学校・高等学校』には○○高等学校、○○中学校を含んでいる」と具体的に列挙していますが、粒度には差があります
- 表の科目数:多くの法人は通知の9科目(教育活動収入計〜当年度収支差額)ですが、中央大学のように教育活動外・特別収支の収入計/支出計まで細かく段階表示する例もあります
追補:セグメントから計算する「大学」と「附属校」の収支比率
セグメント情報の9科目は「差額」系の科目が中心で、人件費や学生納付金の内訳はありません。そのため私学事業団方式の財務比率のほとんどはセグメント単位では計算できませんが、教育活動収支差額比率(教育活動収支差額÷教育活動収入計)だけは、分子・分母ともセグメント表から純正に計算できます。本業(教育活動)の収支バランスを部門別に外部から比較できるようになったのは、新基準の大きな副産物です。表示省略の東京理科を除く14法人で計算してみました。

- 「大学」セグメントは14法人すべて黒字です(+2.5%〜+14.3%)。トップは青山学院+14.3%・明治+13.3%・法政+12.8%。本業ベースで大学部門が法人の稼ぎ頭であることが、初めて数字で横並びに確認できます。
- 「附属校」セグメントは黒字6・赤字8に割れました。立教+11.9%・中央+11.2%・慶應+7.9%が黒字上位、関西学院−14.7%・関西大学−14.6%・立命館−12.3%が赤字側です。同じ「大学の附属校」でも、収支の姿は法人によってまったく違います。
| 法人 | 大学 | 附属校 |
|---|---|---|
| 青学 | +14.3% | −5.7% |
| 明治 | +13.3% | −5.2% |
| 法政 | +12.8% | +0.5% |
| 関大 | +9.8% | −14.6% |
| 関学 | +9.0% | −14.7% |
| 立教 | +8.5% | +11.9% |
| 同志社 | +8.1% | +1.1% |
| 立命館 | +6.8% | −12.3% |
| 日大 | +6.3% | ±0.0% |
| 早稲田 | +5.7% | −8.3% |
| 慶應 | +3.6% | +7.9% |
| 近大 | +3.4% | −8.1% |
| 中央 | +3.1% | +11.2% |
| 上智 | +2.5% | −2.5% |
数字の読み方には注意が必要です。
- 共通経費の配分方法が法人ごとに違います(昭和55年通知方式が多数・慶應は新方式・立命館は予算単位。前述「配分方法」の節参照)。配分の置き方しだいで部門の収支は動くため、法人間の比較は幅を持って見てください
- 「大学」の中身も法人ごとに違います(慶應は医学部・附属病院込み、日大は短大・付属病院込み、同志社は2大学合算。前述「大学セグメントの切り方」「医学部・附属病院」の節参照)。「附属校」列に含まれる学校の範囲も法人ごとに異なり、近畿大学は7区分のため「高等学校・中学校」列を用いています
- 附属校の赤字=問題ではありません。内部進学の基盤や一貫教育という法人の政策そのものであり、法人全体で支える前提の部門です。ここから読めるのは優劣ではなく、「法人内のどこで稼ぎ、どこに投じるか」という各法人の設計です
- 法人本部にあたる「学校法人部門」(その他)の比較分析は行っていません。法人によっては本部機能のほかに附属施設などが「その他」に含まれており、部門の範囲が法人間でそろわないためです
- 2025年度単年・教育活動ベース(運用益や特別収支を含まない)の数字です。単年度で部門の良し悪しを断じることはできません
実務での使い方
初年度の実例から言えるのは、「経過措置をフル活用した無理のない開示」が多数派だったということです。自法人の来年度(令和8年度)決算では引き続き経過措置が使えますが、令和9年度の配分基準切り替えを見据えて、慶應義塾のような先行適用例の注記文言は保存しておく価値があります。また、複数校を持つ法人・医療系を持つ法人は、「大学セグメントの切り方」「医学部・附属病院」の節で挙げた同業の実例が区分設計の直接の参考になるはずです。
制度側の整理(全法人共通の6区分、表示すべき9科目、配分基準の考え方など)は別記事「セグメント情報の注記の書き方」にまとめていますので、合わせてご覧ください。改正会計基準の全体像は「改正学校法人会計基準のポイント」を、15法人の決算数値そのものの比較は「関東の有名私大10法人を財務で比べてみた」をどうぞ。



