基金が大きい大学ほど運用がうまいのか?米国657校と日本656法人のデータで確かめる

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前回の記事イェール・モデルの中身と「今も有効か」を決算書から読むでは、ハーバードやイェールといったエリート校の高リターンの「秘密」が、銘柄選びではなくオルタナティブ資産を厚く持つという資産配分の設計にほぼ集約される、という学術研究の結論を確認しました。

そこで次に湧くのが、素朴で実務的な問いです。では、基金が大きい大学ほど運用がうまいのでしょうか。 エリート校は概して基金も巨大です。だとすれば「規模が大きいほどうまい」という関係が、データにも現れているはずです。本稿はその検証編として、米国のNACUBO調査と日本の私学事業団集計という、日米それぞれの「ほぼ全数」に近い集計データで、規模とリターンの関係を確かめます。

この記事の数値は、米国NACUBO-Commonfund Study(FY2025)と、日本私立学校振興・共済事業団「学校法人の資産運用状況の集計結果」(令和6年度版・令和7年度版)という一次資料から採っています(記事末尾に出典URLを一覧掲載)。両者は集計の定義が大きく異なり、日米を横並びで比較することはできません。この点は本文中で節を設けて注記します。本記事は情報提供を目的とするもので、特定の運用商品・手法を推奨するものではありません。

この記事はAI(Claude Fable 5)で執筆しました。一次資料の収集・執筆・数値の検証をAIエージェントの分業で行い、運営者(人間)は企画・指示と公開前の確認を担当しています。海外大学の運用や学術研究は、私学法・学校法人会計の記事と異なり、運営者自身が原典を読み込みきれていない領域のため、その旨を明示します。誤りにお気づきの際はお問い合わせフォームからご指摘ください。


目次

米国編:NACUBO 657校のデータで見る

まず米国です。NACUBO(全米大学経営管理者協会)とCommonfundが毎年公表する調査は、FY2025(2025年6月30日締め)で657校・合計資産9,443億ドル($944.3B)をカバーする、事実上の全数集計です。中央値の基金規模は約2億5,360万ドル。日本の感覚からすると桁違いの世界ですが、ここでは金額の大きさより「規模区分ごとにリターンがどう違うか」に注目します。

米国大学基金の規模別リターン(NACUBO 2025・net of fees)
米国大学基金の規模別リターン(NACUBO 2025・net of fees)

結論を先に言うと、規模とリターンの関係は、見る期間の長さで姿を変えます。

  • 1年(FY25)はほぼフラット。最も高い区分と低い区分の差は1.3ポイントしかありません(NACUBOの調査サマリー資料でも “only 130 basis points separating high from low” と表現されています)。FY25は全資産クラスが好調だったため、配分の違いが成績差に結びつかなかった、というのがNACUBOの説明です。
  • 3年で見ると、むしろ逆相関です。$50M未満の小規模校が年11.5%だったのに対し、$5B超の巨大基金は7.8%。株高局面では、上場株を厚く持つ小規模校のほうが有利に出ます。
  • 10年で見て初めて、明確な正相関が現れます。$50M未満の7.5%に対し、$5B超は8.9%。エンダウメント・モデルの規模の優位は、10年という長い物差しでしか見えてこないわけです。

なぜ長期でだけ差がつくのか。その答えは、規模区分ごとの資産配分にあります。

規模別のオルタナティブ配分と10年リターン(米国・NACUBO 2025)
規模別のオルタナティブ配分と10年リターン(米国・NACUBO 2025)
規模区分 米国株 債券 海外株 グローバル株 オルタナ他
$50M未満 44.0% 26.1% 13.4% 2.7% 11.9%
$101M〜$250M 30.7% 20.5% 11.7% 10.4% 24.8%
$501M〜$1B 21.2% 16.3% 12.4% 11.1% 37.9%
$1B〜$5B 16.4% 12.3% 10.5% 10.7% 48.0%
$5B超 9.5% 8.2% 7.2% 7.9% 62.2%

規模が大きくなるほど、米国株が細り、オルタナティブが厚くなる。$50M未満はオルタナ12%・米国株44%なのに対し、$5B超はオルタナ62%・米国株はわずか9.5%です。前回の記事で見たイェール・モデルの配分そのものが、規模の大きい区分ほど色濃く現れています。規模が大きい → オルタナが厚い → その優位が長期で効く、という連鎖が、10年リターンの正相関の中身です。


日本編:私学事業団 656法人のデータで見る

次に日本です。私立学校振興・共済事業団が毎年まとめる「学校法人の資産運用状況の集計結果」は、令和7年度版(令和6年度決算の集計)で対象656法人(回収率98.2%)・運用対象資産10兆2,041億円をカバーします。こちらも国内私学のほぼ全数に近い集計です。

日本の学校法人の規模別・資産運用利回り(私学事業団集計・トータルリターン)
日本の学校法人の規模別・資産運用利回り(私学事業団集計・トータルリターン)

ここで注目すべきは、年度によって規模と利回りの関係が逆転するという事実です。

まず最新の令和6年度(金利上昇の年)。規模別の資産運用利回り(平均値)は次のとおりでした。

規模区分 法人数 平均利回り
10億円未満 132 +0.55%
10〜50億円 183 +0.14%
50〜100億円 99 −0.17%
100〜500億円 177 −0.43%
500億円以上 50 −0.56%
全体 641 −0.04%

規模が大きいほど利回りが下がる、きれいな逆相関です。500億円以上の大規模法人は平均でマイナスに沈みました。金利上昇で債券を中心に時価が下がり、有価証券を厚く持つ大規模法人ほど含み損益の悪化が大きく出たとみられます。

ところが、その前年の令和5年度(株高の年)を見ると、関係は真逆になります。

規模区分 平均利回り
10億円未満 1.34%
10〜50億円 1.61%
50〜100億円 2.17%
100〜500億円 4.57%
500億円以上 5.72%
全体 2.78%

今度は規模が大きいほど利回りが高い、きれいな正相関です。500億円以上が5.72%まで伸びています。わずか1年で、相関の符号がまるごと反転しているわけです。

この振れの正体は、資産構成の違いにあります。

規模区分 債券 株式 投信 その他 現金預金
全体 42.8% 2.4% 7.4% 6.2% 41.2%
10億円未満 25.7% 0.6% 3.9% 0.0% 69.8%
500億円以上 47.3% 2.8% 9.6% 10.3% 30.1%

小規模法人は運用資産の約7割が現金預金で、値動きにほとんどさらされていません。一方、500億円以上の大規模法人は現金が30%まで下がり、有価証券が約7割(債券47.3%+株式・投信・その他)を占めます。日本で規模とともに増えているのは、運用の巧拙ではなく「リスクテイクの量」です。だからこそ、単年の利回りは市況の向き一つで、プラスにもマイナスにも、正相関にも逆相関にも振れます。


日米を横並びにできない理由

ここまで日米それぞれのデータを見てきましたが、この二つを直接比較することはできません。集計の定義が根本的に違うためです。混同を避けるため、主な差を表にまとめておきます。

論点 米国 NACUBO 日本 私学事業団
リターンの中身 net investment return(外部運用手数料の控除後) トータルリターン(受取利息配当金+売却損益+含み損益の期首末差÷期中平均残高)。手数料控除は明示なし
会計年度 7月〜翌6月 4月〜翌3月
集計の重み equal-weighted(校ごとに等ウェイト) 単純平均(上下2.5%除外版も併記)

締めの月がずれているだけでも、同じ市況局面を切り取っていることになりません。手数料の扱いも異なります。「米国は10年で8.9%、日本は令和6年度で−0.56%」といった数字を並べて優劣を論じるのは、そもそも土俵が違うということです。本稿で比べているのはあくまで「各国の内部での、規模とリターンの関係」であって、日米間のリターンの高低ではありません。

なお、本文で用いた日本の数値は各区分の平均値です。私学事業団は外れ値の影響を除くため上下2.5%を除いた集計も併記しており、その版では令和6年度の500億円以上が+0.34%へ反転するなど、数字が動く点は申し添えておきます(詳細は末尾の出典PDFをご参照ください)。


考察:見えている構造の違い

日米のデータを並べると、「規模が大きいほどうまい」という問いに対して、それぞれ違う構造が見えてきます。

米国で10年の正相関を生んでいるのは、規模の大きい区分ほどオルタナティブ配分が厚いという一点です。これは前回の記事で紹介したBarber & Wangの結論、すなわち「エリート校の超過収益はオルタナ配分でほぼ説明でき、銘柄選択の魔法ではない」と整合します。もっとも、そのオルタナ運用が今後も報われるかについては、Ennis氏の「誰でも取れるインデックスに負けている期間もある」という批判もありました(この論点は前回の記事に詳しく整理しています)。規模の優位は確かに長期データに現れるが、その源泉は配分であり、賞味期限をめぐる議論は現在進行形というのが、米国側の現在地です。

一方、日本で規模とともに増えているのは、オルタナティブではなく債券でした。500億円以上でも有価証券の中心は債券47.3%で、米国型の「オルタナで長期の超過収益を狙う」設計とは別物です。ここで単年の利回りを大きく振らせているのは、オルタナの巧拙ではなく、債券の価格変動(金利が動いたときのデュレーションの差)です。米国型の「規模の経済」ではなく「債券のリスク量の差」が、市況局面ごとに符号を変えて表面化している——これが日本側の構造です。


まとめ:問いへの答えと、実務の持ち帰り

冒頭の問い「基金が大きい大学ほど運用がうまいのか」への答えは、日米で分かれます。

  • 米国では、長期で見ればYes。ただし優位の源泉は規模そのものではなく、規模の大きい区分ほど厚くなるオルタナティブ配分です。しかもそれは10年という物差しでしか見えず、1年・3年ではフラットか逆相関ですらあります。
  • 日本では、データからは言えない。年度によって相関の符号が反転し、見えているのは「規模が大きいほどリスクテイクの量が多い」という事実だけです。その巧拙は、単年の利回りでは判定できません。

日米に共通する実務の持ち帰りは、はっきりしています。単年の利回りで、自校や他校の運用を評価しない。 米国のデータが示すとおり、規模の優位も配分の巧拙も、複数年のトータルリターンで見て初めて姿を現します。日本の数字が1年で符号ごと反転することも、単年評価の危うさを裏づけています。含み損益まで含めたトータルリターンを、複数年で追う。国内私大どうしの運用スタイルの違いを同じ物差しで並べた関東の有名私大10校 2025年度決算比較も、あわせてご覧ください。

規模は、運用の巧拙そのものではありません。それは「どれだけリスクを取っているか」の目安であり、その結果が吉と出るか凶と出るかは、長い時間軸でしか判定できない——それが、日米のほぼ全数データが揃って示している答えです。シリーズ最終回は、米国エンダウメントを手本に設計された10兆円大学ファンドの現在地を読みます。


出典・注記

米国

日本

注記

  • NACUBOと私学事業団は、リターンの定義(手数料控除の有無・含み損益の扱い)・会計年度(7-6月/4-3月)・集計の重み付け(equal-weighted/単純平均)が異なり、日米を横並びで比較することはできません。本記事はあくまで各国内での「規模とリターンの関係」を扱っています。
  • 本文中の日本の利回りは各区分の平均値です。私学事業団は上下2.5%を除外した集計も併記しており、その版では数値が動きます(令和6年度の500億円以上は+0.34%に反転)。
  • 本記事は情報提供を目的とするもので、特定の運用商品・運用手法の推奨ではありません。運用に関する判断は各法人の自己責任のもとで行われるべきものです。
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この記事を書いた人

学校法人の財務・経理に10年以上従事。予算・決算、資金運用、学費を担当。各法人が公開している計算書類・事業報告書をもとに、私学の財務を分析しています。

資格:日商簿記2級、FP2級、TOEIC L&R 920点
投資:インデックス投資中心に10年以上(投資信託・米国株・暗号資産)

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