大学職員がClaude Codeで3大学の決算書を分析した話——慶應・明治・立教の財務実態が30分でわかった

当サイトのリンクには広告が含まれています。

財務部の仕事柄、他大学の決算書をチェックすることがあるのですが、今回はClaude Codeを使って慶應義塾・明治大学・立教学院の2024年度決算書を自動収集・比較分析してみました。

手作業でPDFを開いて数字を転記する……という作業がいかに省力化できるか、試してみた記録です。

ファクトチェックもしましたが、見落としがあれば私の責任です。


目次

そもそもなぜ大学の財務を比較するのか

大学の財務状況は、一般企業と違って「どこが儲かっているか」より「どこが持続可能な経営をしているか」を見るのが本質です。学校法人は非営利法人なので利益最大化が目的ではなく、教育研究活動を安定的に継続できるかどうかが最重要指標になります。

また、学校法人会計は一般企業の会計と仕組みが異なります。事業活動収支計算書資金収支計算書貸借対照表の3表が中心で、「当年度収支差額がマイナス=赤字経営」とは必ずしも言えない点が特徴的です(後述)。

大学職員として他法人の決算を見る理由は、自法人の財務水準が業界内でどのポジションにあるかを把握するためです。文部科学省の統計や日本私立学校振興・共済事業団の財務比率データも参考になりますが、同規模・同カテゴリの法人を直接比較できると解像度が上がります。


Claude Codeで何をやったか

作業フローの全体像

1. 各法人の公式サイトから決算書PDFのURLをClaude Codeに探させる 2. PDFをローカルに保存し、pypdfでテキスト抽出 3. 事業活動収支計算書・貸借対照表の主要数値を取り出す 4. 3法人の比較表を自動生成・分析コメントを付記

実際にはまったポイント

スムーズではなかった部分も正直に書いておきます。

PDFのバイナリ問題:WebFetchツールでPDFを直接読もうとしたらテキストではなくバイナリが返ってきて、そのままでは数値抽出ができませんでした。pip3 install pypdfでローカルに保存したPDFからテキスト抽出する方針に切り替えてあっさり解決。

大学によってPDF構成が違う:慶應義塾は1ファイルに全計算書が含まれていましたが、明治大学は事業活動収支と貸借対照表が別ファイルに分かれていました。Claude Codeが自分でファイル構成を把握しながら取得先を切り替えてくれたのは助かりました。

テキスト抽出の精度:PDFのレイアウト構造によっては、数値と科目名が正しくペアリングされないケースがあります。今回は抽出後に目視で確認する工程を入れています。完全自動化にはまだ一工夫必要です。

こういったトラブルに対して自分で軌道修正しながら進んでくれるのがClaude Codeの面白いところで、「詰まったらどうする?」をいちいち指示しなくてよいのが時短につながっています。


比較結果:事業規模

まず規模感の確認から。

指標慶應義塾明治大学立教学院
学生生徒等納付金572.8億円451.1億円289.5億円
うち医療収入795.5億円
事業活動収入計1,982.9億円587.6億円379.0億円
事業活動支出計1,886.9億円536.3億円355.9億円

慶應義塾の事業収入が約2,000億円と突出していますが、これは慶應義塾大学病院の存在が大きい。入院・外来・その他を合わせた医療収入だけで795.5億円あり、事業収入全体の約40%を病院が稼いでいます。

これは単純に「慶應がすごい」というよりも、事業モデルが根本的に違うと捉えるべきです。病院を持つ大学法人は教育研究以外の大きな収益源と、それに伴う大きなコスト構造を抱えます。医療を除いた教育事業収入で見ると約1,187億円で、明治の約2倍。それでも規模差は大きいですが、比較の文脈が変わります。

学生生徒等納付金(授業料・入学金・施設設備費など)は純粋な教育規模の代理指標として使いやすく、慶應572.8億 > 明治451.1億 > 立教289.5億という順序は、学生数規模の差を反映しています。


比較結果:収支状況

学校法人の収益性を見るうえで最も重要な指標が基本金組入前当年度収支差額事業活動収支差額比率です。

指標慶應義塾明治大学立教学院
経常収支差額68.6億円47.9億円24.3億円
基本金組入前当年度収支差額96.0億円51.3億円23.1億円
事業活動収支差額比率4.8%8.7%6.1%
基本金組入額98.0億円145.7億円69.8億円
当年度収支差額△2.0億円△95.5億円△46.7億円
翌年度繰越収支差額△1,632.4億円△824.3億円△143.3億円
翌年度繰越支払資金417.3億円186.2億円62.8億円

「当年度収支差額マイナス」は赤字ではない

3法人とも当年度収支差額がマイナスになっていますが、これは赤字を意味しません

学校法人会計では、土地・建物・設備など恒久的に保有すべき資産を取得したとき、その取得額を基本金として組み入れます。この基本金組入額は支出側に計上されるため、事業活動が黒字でも当年度収支差額はマイナスになりえます。

今回の3法人でいうと:

  • 慶應は基本金組入額が98億円 > 黒字96億円 → △2億円
  • 明治は基本金組入額が145.7億円 > 黒字51.3億円 → △95.5億円
  • 立教は基本金組入額が69.8億円 > 黒字23.1億円 → △46.7億円

明治と立教は特に大型の施設整備(新キャンパス棟・設備更新など)を進めており、その投資が数字に表れています。むしろ積極的に教育環境へ投資している証拠と読むべき数字です。

事業活動収支差額比率の見方

「事業活動収支差額比率=基本金組入前当年度収支差額÷事業活動収入計」は、学校法人版の営業利益率に相当します。日本私立学校振興・共済事業団の統計では、大学法人全体の中央値はおおむね3〜5%台です。

3法人はいずれもこの水準を上回っており、経営体力のある法人群といえます。中でも明治大学の8.7%は特筆に値する高さで、規模(事業活動収入587億円)に対して51億円超の黒字を出せる収支構造の効率の良さが際立ちます。


比較結果:財政状態(貸借対照表)

指標慶應義塾明治大学立教学院
総資産5,132.1億円2,546.9億円1,322.2億円
純資産3,859.7億円1,992.3億円1,076.5億円
純資産構成比率75.2%78.2%81.4%
借入金残高(学校債含む)88.8億円0円37.2億円
現金預金417.3億円186.2億円62.8億円

純資産構成比率:財務健全性の基本指標

純資産構成比率は「総資産のうち自己資金で賄われている割合」で、高いほど外部借入への依存が低く財政が安定していることを示します。一般に60%以上で安定、70%超で健全とされます。

3法人はいずれも75%超であり、財政的には非常に安定した部類です。中でも立教学院の81.4%が最高で、2023年度末の81.0%から0.4ポイント改善しており、着実に自己資本比率が高まっています。

明治大学:借入金ゼロの意味

明治大学の借入金残高がゼロという事実は数字として際立っています。一般に大学法人はキャンパス整備のために長期借入や学校債を活用しますが、明治大学は事業活動の黒字と特定資産の積み立てで施設整備を賄うモデルを徹底しています。財務リスクが極めて低く、金利環境の変化にも無縁です。

慶應義塾の借入金構成

慶應の借入金88.8億円の内訳は、長期借入33.8億円・学校債29.5億円・短期借入11.2億円・1年以内償還予定学校債14.3億円です。総資産5,132億円に対して1.7%という水準は実質的に無視できるレベルで、借入を活用しながらも財務規律は維持されています。

繰越収支差額:累積の文脈で読む

翌年度繰越収支差額(3法人ともマイナス)は、長年の基本金組入超過が累積したもので、業界全体に共通する構造的な特徴です。ただし大きさには差があります。

  • 慶應:△1,632.4億円(総資産比 △31.8%)
  • 明治:△824.3億円(総資産比 △32.4%)
  • 立教:△143.3億円(総資産比 △10.8%)

立教の△10.8%は他2法人の約3分の1の水準で、財務構造の「きれいさ」という観点では立教が最も良好です。


まとめ:3法人それぞれの財務的な強み

慶應義塾——スケールと流動性

病院という独自の収益エンジンを持ち、事業活動収入は2,000億円近くと他を圧倒します。翌年度繰越支払資金417億円という流動性の高さは、大型投資や不測の事態への対応力として大きな強みです。ただし、病院運営にはそれ相応のコストと経営リスクも伴います。

明治大学——収益効率と財務の堅牢さ

事業活動収支差額比率8.7%・借入金ゼロという組み合わせは、3法人中で最も「稼ぐ力と財務規律のバランスが取れている」と言えます。施設整備への大型投資(基本金組入145.7億円)を行いながら無借金を維持できているのは、収支の安定した積み上げあってのことです。

立教学院——規模は小さくとも財務体質は最良

総資産・収入規模は3法人で最小ですが、純資産構成比率81.4%・繰越収支差額比率△10.8%と財務の健全性では群を抜きます。2024年度に創立150周年を迎え、新座キャンパス9号館建設など積極的な施設投資を行いながらも、財務バランスを崩していない点は評価できます。


Claude Codeを使った感想:実務での使いどころ

PDF取得→テキスト抽出→数値整理→比較表作成→分析コメントまで、基本的にプロンプトで指示するだけで進みます。手動でやれば半日かかる作業が、実質的には数十分で完結しました。

私がやったことは「これを実行していい?」みたいなお伺いに「Yes」と答えるくらいです。

向いている作業

  • 複数法人の決算書を横断的に収集・整理する
  • 定型フォーマットの数値をピックアップして比較表を作る
  • 数値から定性的なコメントの初稿を作る

向いていない(人間が補う必要がある)作業

  • PDFの数値が正しく抽出されているかの最終確認
  • 会計処理の背景事情(法人特有の注記など)の解釈
  • 数字の意味の文脈判断(「この増減は何が原因か」など)

「ドラフトを爆速で作って、人間が検証・解釈する」という分業が現実的な使い方です。財務分析を全部AIに丸投げするのではなく、作業の前半(収集・整理)をAIに任せて、後半(解釈・判断)を人間が担う形です。学校法人会計のような専門領域ほど、後半の人間の目は重要になります。

学校法人財務の実務担当者で「他法人との比較をもっと手軽にやりたい」と思っている方には、Claude Codeは試す価値のあるツールだと思います。


*分析対象:慶應義塾・明治大学・立教学院 2024年度決算書(2025年3月31日現在)* *作成日:2026年5月13日*

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

経理・財務経験が10年以上の大学職員です。

資格:簿記2級、FP2級、TOEIC L&R 920点
投資年数:10年以上
投資対象:投資信託(主にインデックス投資)、暗号資産、米国株

目次