新しい学校法人会計基準が適用された令和7(2025)年度決算では、財産目録を初めて「第八号様式」で作成した法人が多いはずです。財産目録の作成自体は改正前の私立学校法でも義務でしたが、新基準で記載内容と様式が定められ、監査・理事会承認・公表の対象としての位置づけが明確になりました。本記事では、学校法人の経理・財務担当者向けに、第八号様式の構成、文部科学省の記載例のポイント、実務で判断に迷う基本財産・運用財産の区分、監査対応までを根拠条文とともに整理します。
結論の早見表
| 項目 | 新制度のルール | 根拠 |
|---|---|---|
| 作成期限 | 毎会計年度終了後3月以内(改正前は2月以内) | 私立学校法第107条第1項 |
| 様式・記載内容 | 第八号様式(新基準で新設。数量欄あり) | 学校法人会計基準第43条〜第47条 |
| 金額 | 各項目の金額は貸借対照表と同一(収益事業を行う法人では合計は一致しない。本文参照) | 同第46条 |
| 監査 | 監事の監査。会計監査人設置法人では貸借対照表に対応する項目に限り会計監査人の監査も | 私立学校法施行規則第43条・第24条 |
| 承認・報告 | 理事会の決議による承認 → 評議員への提供・定時評議員会への報告(寄附行為の定めにより評議員会承認の法人もあり) | 同施行規則第43条 |
| 公表 | 公表対象(大臣所轄学校法人等は義務、それ以外は努力義務) | 同施行規則第49条 |
根拠となる法令・通知
財産目録のルールは三層になっています。作成義務と備置き・閲覧の大枠は私立学校法第107条、監査・承認手続の細目は私立学校法施行規則第24条・第43条、記載内容と様式は学校法人会計基準第43条〜第47条・第八号様式が定めています。新基準の財産目録の規定は、令和7年度以降の会計年度に係る財産目録の作成から適用されています(改正省令附則第2条)。
作成義務・期限(年度終了後3月以内)・備置き・閲覧 = 何を・いつまでに
監事監査・会計監査人監査の範囲・理事会承認・評議員会手続 = 誰が確認・承認するか
内容・区分・金額・様式 = どう書くか
記載方法については、文部科学省の通知「学校法人会計基準の一部改正に伴う計算書類の作成等について(通知)」(6高私参第27号・令和7年3月27日)の「第六 財産目録の記載方法について」と別添4「財産目録の記載例」が実務の拠り所です。新基準の全体像は改正学校法人会計基準のポイントで解説していますので、合わせてご覧ください。
適用時期の注意:手続だけ令和6年度分から先行適用されていた
適用時期には落とし穴がありました。改正法の経過措置(改正法附則第4条)は、施行日前に開始した会計年度、つまり令和6(2024)年度以前に係る貸借対照表・収支計算書・事業報告書・監査報告書の作成・備置き・閲覧・公表等を「なお従前の例による」としていますが、この経過措置に財産目録は含まれていません。このため、令和6年度に係る財産目録は施行と同時に改正後の私立学校法の適用を受け、作成期限は令和7年6月末(第107条第1項)、監事の監査(第104条第1項・施行規則第43条第2項)と理事会の承認(同第43条第1項)も必要、という扱いでした。
文部科学省はこの点を事務連絡「令和6年度に係る貸借対照表等、財産目録の作成等について」(令和7年4月24日)で整理したうえで、「実務上の負担を軽減するため」として、会計監査人による監査は不要(会計監査人は令和7年度の定時評議員会の時に初めて選任されるため。改正法附則第9条)、監査報告書は旧法に基づき作成、一定の場合には定時評議員会の招集通知への添付や報告・意見聴取の省略可、といった取扱いを示しています。なぜ財産目録だけ経過措置から外れたのか、公表資料から意図は読み取れません。施行後になって事務連絡で負担軽減の取扱いが示された経緯も踏まえると、実は経過措置に入れるのを忘れていたんじゃないか、と邪推してしまいます。
一方、様式の側は事情が異なります。記載内容と第八号様式を定める学校法人会計基準の改正省令には、財産目録を明示的に含む経過措置が置かれており(附則第2条:令和6年度以前の会計年度に係るものは「なお従前の例による」)、第八号様式の適用は令和7年度分からです。経過措置を欠いていたのは法律(改正法附則第4条)の側だけ、という関係です。つまり「作成期限・監査・承認の手続は令和6年度分から新法、様式は令和7年度分から新基準」という二段構えの適用でした。令和6年度分を旧来の形のまま作成した法人も、手続面がこの事務連絡の取扱いに沿っていたかどうか、記録を確認しておくと安心です。
作成期限 令和7年6月末
3月以内作成・監事監査・理事会承認
統一様式なし
作成期限 令和8年6月末
+会計監査人監査(設置法人)
改正省令附則第2条
財産目録とはどんな書類か
学校法人会計基準第1条第2項は、学校法人が作成すべき書類として、会計帳簿・計算書類(貸借対照表・収支計算書)・その附属明細書と並べて財産目録を挙げています。その内容は「当該会計年度末現在における全ての資産及び負債につき、その名称、数量、金額等を詳細に表示するもの」(同第43条)で、各項目の金額は貸借対照表に記載した金額と同一です(同第46条)。
つまり財産目録は、貸借対照表の「明細版」にあたる書類です。貸借対照表との違いは次の3点に集約されます。
- 数量を書く:校地・校舎の面積(㎡)、教育研究用機器備品の点数、図書の冊数など、金額だけでなく数量・名称を具体的に記載します
- 区分が違う:資産を「基本財産」「運用財産」という貸借対照表にはない区分で表示します(後述)
- 収益事業会計を合算する:収益事業会計への投資額とこれに対応する収益事業会計の資本との相殺消去など、事業相互間の内部取引を消去したうえで法人全体を1つの表にまとめます(同第44条)
固定資産/流動資産
固定負債/流動負債
(一)基本財産 土地・建物・機器備品・図書…
(二)運用財産 現金預金・引当特定資産・有価証券…
(三)収益事業会計資産
(一)固定負債(二)流動負債(三)収益事業会計負債
第八号様式の構成
第八号様式(同第47条)の区分は次のとおりです。資産・負債とも3区分で、各区分の末尾に合計欄が付きます。
| 区分 | 内容(様式の注書きによる定義) | 補足 |
|---|---|---|
| 一 資産額(一)基本財産 | 学校法人の設置する私立学校に必要な施設及び設備またはこれらに要する資金 | 運用財産との区分は各法人が決定(次節) |
| (二)運用財産 | 学校法人の設置する私立学校の経営に必要な財産 | 同上 |
| (三)収益事業会計資産 | 収益事業に必要な資産 | 収益事業を行う場合に限り表示(第45条ただし書) |
| 二 負債額(一)固定負債 | 別表第一の大科目「固定負債」に計上する負債 | |
| (二)流動負債 | 別表第一の大科目「流動負債」に計上する負債 | |
| (三)収益事業会計負債 | 収益事業に必要な負債 | 収益事業を行う場合に限り表示(第45条ただし書) |
様式には金額欄のほかに数量欄が置かれており、校地・校舎は面積(㎡)、教育研究用機器備品は点数、図書は冊数を記載する形になっています。
記載例(通知別添4)で押さえるポイント
通知の別添4「財産目録の記載例」からは、記載の細かさの目安が読み取れます。
- 土地は「校地・運動場・その他」、建物は「校舎・体育館・その他」のように小区分し、それぞれに面積を併記しています
- 積立金は「第3号基本金引当特定資産」のような引当特定資産ごとに掲げたうえで、その中身を「定期預金・有価証券」まで内訳表示しています
- 退職給与引当金を「教員・職員」に分けて記載する例が示されています
- 収益事業会計資産・負債は、流動・固定に分けたうえで現金預金・土地・建物などの科目を記載しています
通知本文も「ステークホルダーへの情報開示を主な目的とする新基準の趣旨に鑑み、貸借対照表に記載する科目より詳細な内容を記載することが望ましい」としています。貸借対照表の科目をそのまま並べ直すだけでは足りず、一段細かい粒度が求められている、と理解しておくとよいでしょう。
実務で迷いやすい「基本財産」と「運用財産」の区分
第八号様式で最初に手が止まるのが、この区分です。貸借対照表にはない区分なので、機械的には落とせません。
通知は「基本財産と運用財産の区分については、各学校法人が、改正私学法第17条第1項の規定及び寄附行為等を踏まえ、決定すること」としています(第六の1)。私立学校法第17条第1項は、学校法人が「その設置する私立学校に必要な施設及び設備又はこれらに要する資金並びにその設置する私立学校の経営に必要な財産を有しなければならない」と定めた条文で、前半(施設・設備・資金)が基本財産、後半(経営に必要な財産)が運用財産の定義に対応しています。
記載例では、土地・建物・教育研究用機器備品・図書が基本財産に、現金預金・引当特定資産・有価証券が運用財産に置かれています。ただしこれはあくまで例示で、区分の最終判断は各法人に委ねられています。寄附行為に基本財産の定めがある法人はまずそれに従い、決めた区分は根拠とともに文書に残して翌年度以降も継続適用するのが安全です。
監査から評議員会までの流れ
新制度で財産目録が計算書類と大きく違うのは、監査・承認・報告の手続が法令上明記されたことです。流れは次のとおりです。
| 手続 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 監事の監査 | 財産目録が監査対象になる | 施行規則第43条第2項(法第104条の準用) |
| 会計監査人の監査 | 貸借対照表に対応する項目に限り監査対象 | 法第86条第1項・施行規則第24条 |
| 理事会の承認 | 監査を受けた財産目録を決議により承認 | 施行規則第43条第1項 |
| 評議員会 | 定時評議員会の招集通知に際して評議員へ提供し、定時評議員会に報告 | 施行規則第43条第2項(法第105条の準用) |
表の「評議員会」は、計算書類と同じく報告・意見聴取が法律のデフォルトです。ただし私立学校法は、評議員会の意見聴取事項について、意見聴取に代えて決議(承認)を要する旨を寄附行為で定めることを認めています(法第66条第4項)。決算関係を評議員会の議決事項としている法人では財産目録も評議員会の承認事項になるので、自法人の寄附行為の定めを確認してください。
会計監査人の監査対象が「貸借対照表に対応する項目」に限られる点は要注意です。対象外の部分(数量など)についても、会計監査人は会計監査報告の中で、計算関係書類の内容や監査の過程で得た知識との「重要な相違等」について報告すべき事項の有無を記載します(施行規則第34条第1項第4号)。監査対象外の欄だから精度は問われない、とはならない建て付けです。
会計監査人を置く義務があるのは大臣所轄学校法人等(大学・高等専門学校を設置する法人のほか、知事所轄でも事業の規模・区域が政令の基準に該当する法人を含みます。法第143条)です。どの法人に設置義務があるかは会計監査人の設置義務がある学校法人とはで解説しています。
作成後の公表・備置きと罰則
作成・承認が終わった財産目録は、役員・評議員名簿(個人の住所部分を除く)などとともに「財産目録等」として公表の対象になり(施行規則第49条)、大臣所轄学校法人等はインターネットでの公表が義務です。主たる事務所への5年間の備置きと閲覧対応も必要です(法第107条第3項〜第6項)。詳細は冒頭で案内した別記事をご覧ください。
なお、財産目録等に記載すべき事項を記載しなかったり、虚偽の記載をしたりした場合は、20万円以下の過料の対象です(法第163条第2号)。様式が定まり監査・公表の対象になったことで、「とりあえず作って綴じておく書類」ではなくなっている点は、法人内でも共有しておきたいところです。
おわりに
改正前の私立学校法(改正前の第47条)でも財産目録の作成・備付けは義務でしたが、様式や監査の定めはありませんでした。新制度では、第八号様式・記載例という「作り方の物差し」と、監事監査・会計監査・理事会承認・評議員会報告・公表という「チェックと開示の流れ」がセットで整備されています。
令和7(2025)年度分を作り終えた法人も、①基本財産・運用財産の区分方針を文書化する、②数量情報を固定資産台帳・図書台帳から集計できるようにする、③監査・理事会・評議員会の日程に財産目録を組み込む――の3点を確認しておくと、翌年度以降の決算が楽になります。
※本記事は令和7年4月1日施行の私立学校法・私立学校法施行規則・学校法人会計基準(いずれもe-Gov法令検索の現行条文)および文部科学省通知6高私参第27号に基づき作成しています。
財産目録を含む書類の公表・備置き・閲覧の実務は別記事で解説していますので、合わせてご覧ください。

学校法人会計・大学財務に関する当ブログの記事は、テーマ別のガイドページに整理していますので、合わせてご覧ください。

