監事監査と会計監査人監査はどう違う?

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改正私立学校法(令和7年4月1日施行)で会計監査人の制度が導入され、学校法人の決算実務には「監査報告」と「会計監査報告」という2種類の報告書が登場することになりました。名前が似ているうえ、どちらも計算書類にかかわるため、「監事の監査と会計監査人の監査は何が違うのか」「両方いるのか」が分かりにくいところです。本記事では、学校法人の経理部・財務部向けに、監事監査と会計監査人監査の違いを根拠条文にそって整理します。

監事は全ての学校法人に置かなければならない機関、会計監査人は原則任意(大臣所轄学校法人等では必置)の機関です。どの法人に会計監査人の設置義務があるかは、別記事の「会計監査人の設置義務がある学校法人とは」で整理していますので、合わせてご覧ください。

目次

結論の早見表

先に両者を対比でまとめます。

項目監事の監査会計監査人の監査
設置根拠第18条第1項(全法人に必置第18条第2項(任意)/第144条(大臣所轄学校法人等は必置)
選任評議員会の決議(第45条)評議員会の決議(第80条)
資格学校運営・業務財務管理に識見を有する者(第45条)公認会計士または監査法人に限る(第81条)
監査の範囲業務監査+会計監査(業務・財産の状況、理事の職務執行)(第52条)会計監査に限定(計算書類・附属明細書・財産目録〔貸借対照表対応項目に限る〕)(第86条)
報告書の名称監査報告(第56条)会計監査報告(第86条第2項)
報告書の提出先理事会及び評議員会(第56条第1項)監事及び理事会(第86条第2項)
意見の区分適正表示についての意見(施行規則第31条・第35条)無限定適正/限定付適正/不適正の3区分(施行規則第34条)
事業報告書の監査監事のみが実施(施行規則第40条)意見表明の対象外(ただし「その他の記載内容」として通読・検討。本文参照)

大きな違いは、監事は法人の業務全体(業務監査)まで見るのに対し、会計監査人は計算書類の会計監査だけを担うという点です。会計監査人には業務監査の権限も、理事の違法行為の差止請求権もありません。

関係法令の整理

法令該当条文内容
私立学校法(令和5年改正・令和7年4月1日施行)第52条・第56条監事の職務・監査報告の作成
第86条会計監査人の職務・会計監査報告の作成
第104条計算書類等の監査(第2項=監事及び会計監査人)
私立学校法施行規則第24条・第31条・第34条・第35条監査対象書類・監査報告と会計監査報告の内容
第32条・第36条・第38条監査報告・会計監査報告の通知期限
私立学校振興助成法第14条公認会計士等の監査(会計監査人設置法人は除外)

監事の監査

監事は、理事・理事会・評議員などと並ぶ必置機関です(第18条第1項。定数は2人以上=同条第3項)。その職務は第52条に定められており、第1号で「学校法人の業務及び財産の状況並びに理事の職務の執行の状況を監査すること」とされています。会計だけでなく法人運営全般を対象とする、いわゆる業務監査を含む点が特徴です。

監事はこの監査を行ったとき、文部科学省令の定めにより監査報告を作成し、理事会及び評議員会に提出しなければなりません(第56条第1項)。また、不正の行為や法令・寄附行為違反の重大な事実を発見したときは、遅滞なくその旨を理事会・評議員会に加えて所轄庁にも報告する義務があります(第56条第2項)。所轄庁への報告義務は会計監査人にはない、監事固有の職責です。

監査報告の内容と通知期限は、会計監査人を置いているかどうかで施行規則の条文が分かれます。

  • 会計監査人を置かない法人の監事:監査の方法・内容、計算関係書類が財産及び収支の状況を適正に表示しているかの意見などを記載します(施行規則第31条)。計算書類の全部を受領した日から4週間、附属明細書を受領した日から1週間のいずれか遅い日までに、監査報告の内容を通知します(施行規則第32条)。
  • 会計監査人を置く法人の監事:会計監査人の監査の方法・結果を相当でないと認めたときはその旨などを記載します(施行規則第35条)。通知期限は、会計監査報告を受領した日から1週間を経過した日までです(施行規則第38条)。

このほか監事は、事業報告書及びその附属明細書についても監査報告を作成します(施行規則第39条〜第41条)。事業報告書の監査は会計監査人の対象外で、監事だけが担います。ただし、会計監査人がまったく見ないわけではありません。監査の基準では、監査した計算関係書類とあわせて開示される意見表明対象外の書類——事業報告書(財務の概要を含みます)や、財産目録のうち意見の対象とされていない部分——を「その他の記載内容」として通読し、計算関係書類や監査の過程で得た知識との間に重要な相違がないかを検討することとされています(日本公認会計士協会 非営利法人委員会実務指針第44号・監査基準委員会報告書720)。「監査意見の対象」と「ノーチェック」は別物、という整理です。

会計監査人の監査

会計監査人は、第86条第1項により、計算書類(貸借対照表・収支計算書)及びその附属明細書、並びに財産目録その他文部科学省令で定めるものを監査します。ここでいう「文部科学省令で定めるもの」は、財産目録のうち貸借対照表に対応する項目に限られます(施行規則第24条)。監査の範囲が会計面に絞られているのが監事との決定的な違いです。

会計監査人は監査を行ったとき、会計監査報告を作成し、監事及び理事会に提出しなければなりません(第86条第2項)。会計監査報告の内容は施行規則第34条に定められており、監査意見は次の3区分で表明されます。

意見の区分意味
無限定適正意見計算関係書類が学校法人会計の慣行に準拠し、財産及び収支の状況を全ての重要な点で適正に表示していると認められる旨
除外事項を付した限定付適正意見除外事項を除き適正に表示していると認められる旨(除外事項とその理由を付記)
不適正意見計算関係書類が不適正である旨及びその理由

会計監査報告の通知期限は、計算書類の全部を受領した日から4週間、附属明細書を受領した日から1週間のいずれか遅い日までです(施行規則第36条)。会計監査人はこのほか、会計帳簿等の閲覧・謄写の請求権や、子法人への会計報告請求・調査権も持ちます(第86条第3項〜第5項)。

会計監査人設置法人では、計算書類及びその附属明細書は監事と会計監査人の両方の監査を受けます(第104条第2項)。監事は会計監査人の監査結果を踏まえたうえで、自らの監査報告を作成する建付けです。

助成法の公認会計士等監査との関係

もう一つ整理しておきたいのが、私立学校振興助成法第14条の監査との関係です。経常的補助金を受ける学校法人(助成対象学校法人)は、計算書類及びその附属明細書について公認会計士または監査法人の監査を受けなければならないのが原則です(同条第2項)。

ただし、この義務からは「会計監査人設置学校法人等」(私学法上の会計監査人設置法人及び大臣所轄学校法人等)が除外されています(同条第2項かっこ書き)。会計監査人を置く法人は、所轄庁への提出書類にも助成法の監査報告に代えて私学法第86条第2項の会計監査報告を添付します(同条第4項)。

つまり、「私学法の会計監査人監査」と「助成法の公認会計士等監査」は制度としては別ですが、会計監査人を設置している法人では後者が前者に一本化され、二重監査にはなりません。会計監査人を置かない中小規模の知事所轄法人などが補助金を受ける場合に限り、原則として助成法独自の公認会計士等監査を受けることになります(補助金が少額で所轄庁の許可を受けたときは免除があり得ます)。

実務での流れ(会計監査人設置法人の場合)

会計監査人設置法人では、計算書類の作成から監査完了まで、次の順序で進みます。

  1. 計算書類等を作成した理事が、会計監査人と監事の双方に計算関係書類を提供(施行規則第33条)
  2. 会計監査人が、計算書類全部の受領日から4週間・附属明細書の受領日から1週間のいずれか遅い日までに、会計監査報告の内容を監事・理事に通知(施行規則第36条)
  3. 監事が、会計監査報告を受領した日から1週間を経過した日までに、監査報告の内容を理事・会計監査人に通知(施行規則第38条)
  4. 監査を受けた計算書類等を理事会が承認(第104条第3項。承認は監査報告・会計監査報告の内容を踏まえて行う)

毎会計年度終了後3月以内という計算書類の作成期限(第103条第2項)から逆算すると、会計監査人と監事の作業を並行させつつ、通知期限を守るスケジュール管理が実務の要になります。

なお、承認済みの計算書類・監査報告・会計監査報告を、所轄庁への提出書類としてどの順序でとじ込むかは別の論点です。とじ込み順序は計算書類(決算書類)のとじ込み順序で整理していますので、合わせてご覧ください。

おわりに

監事監査と会計監査人監査の違いは、「監事=業務監査を含む必置機関/会計監査人=会計監査に限定した公認会計士等の監査」と押さえると整理しやすくなります。決算実務では、監査報告と会計監査報告の2本が作成され、それぞれ提出先も通知期限も異なります。会計監査人設置法人では両者の作業が連動するので、通知期限の時系列を早めに共有しておくと安心です。監査から理事会・評議員会・提出までの全体の段取りは学校法人の決算スケジュール逆算カレンダーにまとめています。

個別の判断で迷う場合は、所轄庁(都道府県私学担当課)や顧問の公認会計士・監査法人にご確認ください。

※本記事は令和7年4月1日施行の改正私立学校法・私立学校法施行規則・私立学校振興助成法(いずれもe-Gov法令検索の現行条文)に基づき作成しています。

改正私立学校法の全体像は以下で解説していますので、合わせてご覧ください。

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この記事を書いた人

学校法人の財務・経理に10年以上従事。予算・決算、資金運用、学費を担当。各法人が公開している計算書類・事業報告書をもとに、私学の財務を分析しています。

資格:日商簿記2級、FP2級、TOEIC L&R 920点
投資:インデックス投資中心に10年以上(投資信託・米国株・暗号資産)

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