【2025年度決算】△170億円の赤字は「実力」か──賞与引当金で読む関関同立+近大

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前回の関東編では、改正学校法人会計基準の適用初年度である2025年度決算で、賞与引当金の期首相当額208.8億円(関東10法人合計)が特別支出に一時計上され、収支の見た目を大きく歪めたことを整理しました(関東編はこちら)。

今回は関西編です。関関同立+近大の5法人を同じ方法で分析すると、期首一括計上の合計は92.3億円。内訳は最大の近畿大学40.0億円から、計上のなかった関西学院のゼロまで偏っており、金額の規模も偏りも、ここまでは関東と同じ構図です。ところが関西には、関東にはなかった論点が2つあります。

1つは、近畿大学の△170億円。賞与引当金を差し引いても赤字が消えません。もう1つは、その消えない赤字の正体を追うと、「一過性の費用は特別収支に計上される」という関東編の前提が通用しないケースに行き当たることです。

決算書の読み方としては、実は関西編のほうが一段深い教材になっています。順に見ていきます。

なお、5法人の収支構造・資金運用の全体像は別記事「【2025年度決算】関西の有名私大5法人を財務で比べてみた」で扱っています。

目次

5法人の対応──ここでも方式は割れた

賞与引当金の制度的な背景と「期首一括計上」の仕組みは関東編に譲り、結果だけ整理します。

法人期首分の計上方式金額根拠
関西大学特別支出「賞与引当金特別繰入額」19.0億円注記「期首に計上すべき額として特別収支に1,903,020,848円を計上」
立命館特別支出「賞与引当金特別繰入額」22.0億円注記「期首に計上すべき額2,201,179,055円を特別収支に計上」
近畿大学特別支出「賞与引当金特別繰入額」40.0億円事業活動収支計算書の特別支出に計上
同志社特別支出「過年度修正額」の内数11.2億円注記「期首に計上すべき額として特別収支に1,122,206,458円を計上」
関西学院計上なし注記の引当金計上基準・会計方針の変更に賞与引当金の記載なし
賞与引当金の期首一括計上額(特別支出・2025年度・関西5法人)
賞与引当金の期首一括計上額(特別支出・2025年度・関西5法人)

関東編で見た3類型(特別繰入型・過年度修正型・計上なし)が、関西でもそのまま現れました。

同志社のケースは実務上参考になります。決算書の特別支出には「過年度修正額 1,144,810,154円」としか出てこないのですが、注記まで読むと賞与引当金の期首分は1,122,206,458円と正確な金額が書かれています(差額の約2,260万円は賞与以外の過年度修正)。「過年度修正額の中身は注記で必ず確認する」という関東編の教訓どおりの好例です。

関西学院は5法人で唯一、賞与引当金を計上していません。注記の引当金計上基準には徴収不能引当金と退職給与引当金のみが記載され、会計方針の変更も様式変更のみです。関東の早稲田・明治(未払金方式を注記に明記)と違い、賞与の処理方法自体の記載が見当たらないため、本記事では「計上なし」とだけ整理します。

引当金計上の要件が、改正で加わりましたが、それをもってしても賞与引当金を計上しないのはどのような理由付けをしたのか非常に気になります。

賞与分を除いても、近大の赤字は消えない

関東編と同じく、基本金組入前当年度収支差額に期首一括分を足し戻してみます。

基本金組入前当年度収支差額:公表値と期首一括分を除いた場合(2025年度・関西5法人)
基本金組入前当年度収支差額:公表値と期首一括分を除いた場合(2025年度・関西5法人)
法人公表値期首一括分を除いた場合
関西大学51.6億円70.6億円
関西学院5.8億円5.8億円
同志社75.6億円86.8億円
立命館56.0億円78.0億円
近畿大学▲169.8億円▲129.8億円

関西大学(1.4倍)・立命館(1.4倍)・同志社(1.1倍)は、関東で見た「見かけより実力が上」の構図そのままです。

なお関東編では「10法人合計の収支差額を約3割押し下げた」という相対値を示しましたが、関西5法人の合計(公表19.2億円・期首一括分を除くと111.4億円、筆者試算)は近大の移転関連費用(後述)に大きく引きずられるため、合計ベースの押し下げ率には意味がありません。ここからは法人別に見ます。

問題は近大です。関東編では、日大の▲29.4億円が賞与引当金81.5億円を除くと黒字圏に転じました。ところが近大は、賞与分40.0億円を除いても▲129.8億円の支出超過が残ります。「改正基準のせい」では説明がつかない規模です。

では、これは近大の経常的な実力なのでしょうか。

△170億円を解剖する──一過性費用は特別収支に入るとは限らない

答えは近大自身が事業報告書で開示しています。2025年11月の医学部・近畿大学病院の移転(おおさかメディカルキャンパス)に関連して、次の一時費用を計上したと説明されています。

  • 移転関連の追加減価償却費 103億円──解体予定の旧医学部・旧病院の建物等について「帳簿上の計上額を実態に即した計上額にするため」計上
  • 解体工事関連引当金 40億円──改正基準に従い、解体工事関連費用を引当計上
  • 賞与引当金 43億円──改正基準に従い計上

合計186億円。事業報告書はこれらを除くと「基本金組入前当年度収支差額は16億円の収入超過」になると明記しています。

近畿大学△170億円の分解:一過性要因186億円を除くと16億円の収入超過(出典:同法人2025年度事業報告書)
近畿大学△170億円の分解:一過性要因186億円を除くと16億円の収入超過(出典:同法人2025年度事業報告書)

つまり△170億円のほぼ全部が、病院移転プロジェクトと制度変更に伴う一時費用でした。近大の経常的な収支体力が毀損したわけではありません(もちろん解体費も減価償却も実際に発生する負担であり、「なかったこと」になるわけではない点は付言しておきます)。

そして、ここに関東編の読み方ルールを修正する重要な教訓があります。

関東編では「経常収支差額は例年どおり比較してよい。一過性要因は特別収支を見ればよい」と書きました。ところが近大の186億円のうち、特別支出に計上されたのは賞与引当金だけで、追加減価償却103億円と解体工事関連引当金40億円は経常(管理経費)に計上されています。実際、近大の管理経費は245.4億円と経常収入の15.5%に達し、経常収支差額も△146.8億円と大きく沈んでいます。

一過性の費用は、必ずしも特別収支に入るとは限らない。 経常収支差額が大きく動いた法人を見たら、比率表を眺める前に注記と事業報告書で「経常の中の一時費用」を探す──関西編で得られる最大のチェックポイントです。

コラム:立命館だけ「賞与の実額」が見える

少し毛色の違う話ですが、人件費の小科目を見ていて立命館は15法人(関東10+関西5)で唯一、人件費の中に「賞与」という独立科目があることに気づきました。

  • 賞与(当年度支給分): 56.1億円
  • 賞与引当金繰入額(期末引当): 23.1億円

他の法人では賞与は教員人件費・職員人件費の中に溶け込んでいると思われ、外から見えません。決算書から年間賞与の規模感が直接読み取れるのは立命館だけです。教職員数や給与体系が違うので他校との比較には使えませんが、「決算書の科目の立て方は法人の裁量で変わる」という例となります。

関西学院──賞与引当金ゼロでも「一過性」はある

賞与引当金を計上しなかった関西学院は、では今年度の決算がそのまま実力かというと、こちらも別の一過性要因を抱えています。

関学の2025年度は、特別支出の資産処分差額に第3号基本金引当特定資産評価差額 26.2億円(有価証券の強制評価損)が含まれており、いわゆる減損です。これが組入前収支差額を押し下げ、基本金組入前当年度収支差額5.8億円となっています。また基本金組入額は107.0億円と、組入率21.4%は15法人で最大です。組入後の当年度収支差額は▲101.1億円ですが、これは将来の施設等に向けた組入の結果であって、単年度の経営悪化を意味しません。

賞与引当金の有無にかかわらず、特別収支と基本金組入の中身を確認してから収支を評価するという原則は同じ、ということです。

関東10+関西5、15法人まとめ

2回にわたって見てきた改正基準1年目の賞与引当金インパクトを合算すると、こうなります。

関東10法人関西5法人15法人計
期首一括計上額208.8億円92.3億円301.1億円
特別繰入型6法人3法人9法人
過年度修正型2法人1法人3法人
計上なし2法人1法人3法人

有名私大15法人だけで約300億円。全国の学校法人に広げれば、2025年度決算には相当規模の「制度変更の初期費用」が埋まっていることになります。来年度以降、2025年度を基準に前年比較や5年推移を作るときは、この段差を忘れないようにしたいところです。

実務担当者のチェックポイント(関西編で加わったもの)

関東編の4点(期首分の計上科目の確認/3類型の把握/5年推移への注記/翌年度の正常化)に加えて、次の2点を挙げます。

  1. 経常収支差額の急変動を見たら、経常の中の一時費用を疑う。大型の施設移転・建替えがある法人では、追加減価償却や解体関連引当金が管理経費(経常)に乗ることがあります。特別収支だけ見ていると見落とします
  2. 「過年度修正額」の正確な内訳は注記で拾う。同志社のように、注記まで読めば賞与引当金分を1円単位で特定できることがあります

まとめ

  • 関西5法人の賞与引当金・期首一括計上は合計92.3億円。方式は特別繰入型3・過年度修正型1・計上なし1と、関東同様に割れた。内訳は最大の近大40.0億円から関学のゼロまで偏る
  • 近大の▲170億円は賞与分を除いても消えないが、正体は病院移転関連の一時費用(追加減価償却103億円+解体引当40億円)+制度変更(賞与43億円)の計186億円。除けば16億円の収入超過と法人自身が開示している
  • 移転関連の一時費用は特別収支ではなく経常(管理経費)に計上されており、「一過性=特別収支」という思い込みは危険
  • 立命館は15法人で唯一「賞与」を独立科目で開示。関学は賞与引当金の計上なしだが、評価損26.2億円という別の一過性要因あり

毎回のお断りです。学校法人の決算は黒字最大化が目的ではなく、投資局面や基本金組入によって収支は大きく動きます。本記事の調整値も含め、単年度の数字で法人の優劣を断じることはできません。近大の186億円も、長年の懸案だった医学部・病院移転を実行に移した結果としての費用であり、財務的な体力があってこその投資と読むべきものです。

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出典・注記

  • 各学校法人が公表する2025年度(令和7年度)計算書類(事業活動収支計算書・貸借対照表)、計算書類の注記事項、事業報告書。数値はすべて決算列の円単位原数値から集計し、内訳和と合計の機械検算を通したものを使用しています
  • 期首一括計上額は、関西大学・立命館・同志社=注記事項記載の金額、近畿大学=事業活動収支計算書の「賞与引当金特別繰入額」によります。関西学院は注記に賞与引当金に関する記載がないため「計上なし」と整理しました
  • 近畿大学の一過性要因186億円と「除くと16億円の収入超過」は、同法人2025年度事業報告書「今年度決算の特徴」の記載(億円単位の丸め値)です
  • 「期首一括分を除いた場合」の値は筆者による試算であり、各法人の公表値ではありません
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この記事を書いた人

経理・財務が10年以上の大学職員です。

資格:簿記2級、FP2級、TOEIC L&R 920点
投資年数:10年以上
投資対象:投資信託(主にインデックス投資)、暗号資産、米国株

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