学校法人の決算書(貸借対照表)の「純資産の部」に出てくる基本金は、民間企業の「資本金」と名前は似ていますが、性格はまったく異なります。学校法人会計を理解するうえで最初の関門になりやすい項目です。
本記事では、学校法人で財務・会計に携わる筆者が、基本金とは何か/第1号〜第4号の違い/組入れと取崩しの仕組みまでを、現行の学校法人会計基準(令和6年改正・令和7年4月施行)に沿って実務目線で解説します。
決算書全体の見方は学校法人会計基準の完全ガイド、企業会計との違いはこちらの記事を合わせてご覧ください。本記事は基本金そのものの解説に絞っています。
基本金とは何か
学校法人会計基準は、基本金を次のように定めています。
第十二条 学校法人が、その諸活動の計画に基づき必要な資産を継続的に保持するために維持すべきものとして、その事業活動収入のうちから組み入れた金額を基本金とする。
学校法人会計基準 第12条(e-Gov法令検索。令和6年改正後。改正前の基準では第29条)
ポイントは「その事業活動収入のうちから組み入れた金額」という点です。ここでいう事業活動収入には、学生納付金だけでなく寄付金・補助金・現物寄付なども含まれます。それらを源泉に、活動に必要な資産を継続的に保持するために維持すべき額として組み入れた部分が基本金です。
民間企業の「資本金」は株主が拠出した元手であり、基本金とは成立の原因が異なります(基本金は出資ではなく、組入れによって生じる計数で、配当もありません)。学校法人は永続性・公共性が求められ、校地・校舎などの基盤を継続的に保持する必要があるため、その裏付けとなる純資産を「基本金」として固定的に確保しておく――これが基本金の考え方です。
なお、基本金は「現金を別に積み立てた額そのものではありません」。特に第1号基本金は、保有する固定資産に対応して計上される計数であり、同額の現金が手元にあることを意味しません。
第1号〜第4号の違い(第13条)
基本金は、組入れの対象によって第1号から第4号までの4種類に分かれます(学校法人会計基準第13条)。まず全体像を図で示します。

各区分の詳細は次の表のとおりです。
| 区分 | 組入れの対象 | 主な例 | 実務上の注意 |
|---|---|---|---|
| 第1号基本金 | 設立当初に取得した教育用の固定資産、または新設・規模拡大・教育の充実向上のために取得した固定資産の価額 | 校地・校舎・設備・図書 | 借入金・未払金で取得した分は、その返済・支払をした会計年度に組み入れる(第13条第3項) |
| 第2号基本金 | 将来取得する固定資産の取得に充てる金銭その他の資産の額 | 新校舎建設のための積立原資 | 組入れは基本金組入計画に従って行う。計画変更・取りやめ時は取崩しの対象 |
| 第3号基本金 | 基金として継続的に保持し、かつ運用する金銭その他の資産の額 | 奨学基金・研究基金 | 元本を保持・運用して果実(運用益)を充てるもの。第2号と混同しない |
| 第4号基本金 | 恒常的に保持すべき資金として、別に文部科学大臣が定める額 | 運転資金 | 会計監査人非設置の知事所轄学校法人は、第4号を組み入れないこともできる(第49条) |
実務で特に誤解されやすいのが第3号基本金です。第3号は、元本を取り崩さず、その運用果実を奨学金・研究費などに充てることを目的とした基金です。「将来のための積立金」と説明されることがありますが正確ではありません。将来の固定資産取得のために積み立てる第2号とは目的が異なり、第3号は“貯める”のではなく“運用して果実を使う”もの、と整理すると混同を避けられます。第3号基本金と特定資産・資産運用の関係は、大学が資産運用を行う目的とは?特定資産と第3号基本金で詳しく解説しています。
基本金の組入れと「基本金組入後収支比率」
- 「基本金組入前当年度収支差額」から「基本金組入額」を差し引いて、「当年度収支差額」が求められます。
- 組入額は事業活動の“支出”ではなく、収支差額のうち将来に向けて純資産として確保した部分という性格です(資金の流出ではありません)。
基本金組入後収支比率 = 事業活動支出 ÷(事業活動収入 − 基本金組入額)
※式に代入する基本金組入額は正の金額として扱います(計算書上の「△表示」を符号付きのまま代入しないよう注意)。
この比率が100%を超えると、基本金組入後の当年度収支差額は支出超過になります。ただし、これはただちに「経営不振の赤字」を意味するわけではありません。たとえば、基本金組入前の収支差額がプラスで、その差額を上回る組入れ(大型の固定資産取得など)を行った年にも100%を超えます。
- 数値例:組入前収支差額が+10、その年の基本金組入額が15のとき、組入後の当年度収支差額は△5、比率は100%超。しかし組入前の収支はプラスで、将来への投資に踏み込んだ年といえます。
- 一方で、組入前から収支が悪い場合にも100%を超えます。比率だけでは両者を判別できないため、必ず「基本金組入前収支差額」と併せて読みます。
各大学の実例は、決算比較記事(関東10法人・関西5法人)で解説しています。
基本金の取崩し(第14条)
基本金は、限定された事由に該当する場合に、当該事由に定める額の範囲内で取り崩すことができます(学校法人会計基準第14条)。条文上は次の4つです。
- その諸活動の一部または全部を廃止した場合 ―― 廃止した諸活動に係る基本金への組入額
- 経営の合理化により第13条第1項第1号の固定資産を有する必要がなくなった場合 ―― その固定資産の価額
- 第13条第1項第2号の金銭その他の資産を、将来取得する固定資産の取得に充てる必要がなくなった場合 ―― その金銭その他の資産の額
- その他やむを得ない事由がある場合 ―― その事由に係る基本金への組入額
ポイントは次のとおりです。
- 条文は「取り崩すことができる」と定めており、取り崩せる額は各号に定める額の範囲内です(残高まで自由に取り崩せるわけではありません)。
- 第3号基本金(基金)は、上記1(基金に係る諸活動の廃止)や4(やむを得ない事由)に当たる限定的な場合を除き、容易には取り崩せません。
- 基本金の取崩しは、資金の払出し(特定資産取崩収入など)とは別物です。取り崩した基本金の額は、翌年度繰越収支差額の計算に加算されます(会計基準第29条〔翌年度繰越収支差額〕。冒頭で触れた改正前基準の第29条〔基本金〕とは別の条文です)。
基本金の組入れ・取崩しの実務上の取扱いは、文部科学省「学校法人会計問答集(Q&A)第16号 基本金に係る実務上の取扱いについて」も参照してください。
決算分析で基本金をどう読むか
基本金、とくに第3号基本金の充実度(総資産に対する比率)は、その法人が奨学・研究などの基金をどれだけ厚く持っているかの目安になります。ただし基本金の厚みだけで財務の良し悪しは判断できないため、収支差額・負債・流動性などの指標と併せて読むのが実務的です。
- 【2024年度】主要私立大学の資金運用比較
- 第3号基本金の充実度を含む財務比較:関東10法人/関西5法人
まとめ
- 基本金は、事業活動収入(寄付金・補助金等を含む)のうち、活動基盤を維持するために組み入れた純資産。資本金(出資)とは成立原因が別で、現金の積立額そのものでもない。
- 第1号=取得済みの教育用固定資産(借入・未払分は返済時に組入れ)、第2号=将来の固定資産取得のための事前組入れ、第3号=運用して果実を充てる基金、第4号=文科大臣が定める運転資金。
- 基本金組入後収支比率が100%超でも赤字とは限らない。必ず組入前収支差額と併せて読む。
- 取崩しは第14条の4事由に限られ、各事由に定める額の範囲内。第3号は特に限定的。

