【2024年度決算】関西の有名私大5法人を財務で比べてみた──関関同立+近大

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私立大学の「経営状況」は、入試の偏差値や知名度とは別の角度から見ることができます。各学校法人が毎年公開している決算書(計算書類)と事業報告書には、その大学が1年間でどれだけの収入を得て、何にお金を使い、どれだけ資産を蓄えているかが数字で示されています。

この記事では、関西の有名私立大学5法人(関西大学・関西学院・同志社・立命館・近畿大学)の2024年度(令和6年度)決算を、同じものさしで横並びに比較します。数字はすべて各法人が公開している決算書・事業報告書から取得し、日本私立学校振興・共済事業団(以下、私学事業団)が用いる標準的な算式で揃えました。関東の有名私大10校の比較記事と同じ方法・同じ指標です。翌年度(2025年度)の関西5法人比較もあわせてご覧いただけます。


目次

結論:収支は「同志社・関学」、運用は「立命館」、近大は別の生き物

先に大づかみの結論です。

  • 収支の余裕は、同志社(8.4%)・関西学院(7.9%)が高く立命館(2.4%)・関西大学(3.0%)が低いという結果に。
  • 資金運用は立命館がずば抜けている。有価証券1,241億円・受取利息・配当金29.7億円で、保有有価証券の含み益は約548億円。
  • 立命館と関西大学は、本業の教育活動収支が赤字。運用収益(教育活動外収支)が経常収支の黒字を支える構造になっています。
  • 近畿大学は収支構造そのものが他の4法人と異なる。医療収入(約704億円)が学生納付金(約608億円)を上回り、関東でいえば慶應義塾に近い「事業多角化型」です。一方で有価証券運用はほぼ行っておらず、資金は施設投資(建設仮勘定560億円)に向かっています。

なお、学校法人会計では、基本金として必要な資金を保全した上で収支が均衡することが目指されており、黒字幅の最大化が目的ではありません。比率の高低は「経営の個性」として読むのが適切です。

以下、「①収支構造(稼ぎ方・使い方)」と「②資金運用(資産の活かし方)」の2つの切り口で見ていきます。


① 収支構造で見る5法人 ―― 事業活動収支計算書関係比率

学校法人会計では、収益性やコスト構造を「事業活動収支計算書関係比率」という指標群で表します。ここでは代表的な6つを取り上げます。各比率の算式は、私学事業団が公表する財務比率一覧(PDF)に準拠しています。

事業活動収支差額比率(2024年度・関西5校)
事業活動収支差額比率(2024年度・関西5校)
人件費比率(2024年度・関西5校)
人件費比率(2024年度・関西5校)
教育研究経費比率(2024年度・関西5校)
教育研究経費比率(2024年度・関西5校)
学生生徒等納付金比率(2024年度・関西5校)
学生生徒等納付金比率(2024年度・関西5校)
経常収支差額比率(2024年度・関西5校)
経常収支差額比率(2024年度・関西5校)
基本金組入後収支比率(2024年度・関西5校)
基本金組入後収支比率(2024年度・関西5校)

事業活動収支差額比率(収益性)

事業活動収支差額比率=基本金組入前当年度収支差額 ÷ 事業活動収入

基本金組入前の収支差額が事業活動収入に占める割合で、プラスが大きいほど当年度の収支に余裕があることを示します。

高い順 比率
同志社 8.4%
関西学院 7.9%
近畿大学 4.7%
関西大学 3.0%
立命館 2.4%

同志社・関西学院が8%前後で余裕があり、立命館・関西大学は2〜3%にとどまりました。ただしこの比率は当年度の補助金や寄付の計上、施設整備の進み具合に左右されるため、単年度の高低だけで経営の優劣を断じることはできません。経年で見ることが大切です。

立命館と関西大学は「本業赤字・運用で黒字」

経常収支差額比率(経常収支差額÷経常収入)は、同志社7.6%・関西学院8.2%に対し、立命館2.4%・関西大学2.3%でした。さらに内訳を見ると、両法人とも教育活動収支差額(本業の収支)がマイナスです。

  • 立命館:教育活動収支差額 △8.6億円 → 受取利息・配当金29.7億円を中心とする教育活動外収支で経常収支を黒字化
  • 関西大学:教育活動収支差額 △0.4億円 → 受取利息・配当金13.2億円で経常収支を黒字化

授業料や補助金だけでは支出をまかなえず、蓄えた資産の運用収益が経常黒字のカギを握っている構図です。資金運用が「あれば嬉しいプラスアルファ」ではなく、経常収支の生命線になりつつあることが分かります。

近畿大学の「異色さ」が数字に出る

5法人を並べると、近畿大学だけが明確に異なる収支構造を持っていることが分かります。

  • 学生生徒等納付金比率:39.5%(5法人で断トツの最小。他の4法人は70〜78%)
  • 教育研究経費比率:49.6%(5法人で最大)
  • 人件費比率:41.4%(5法人で最小)

学生生徒等納付金比率=学生生徒等納付金 ÷ 経常収入 教育研究経費比率=教育研究経費 ÷ 経常収入

近畿大学は医療収入が約704億円と、学生納付金(約608億円)を上回ります(近畿大学病院など)。教育研究経費約764億円のうち約457億円は医療経費です。一般的な私大が「授業料で成り立つ」のに対し、近大は医療を含む事業多角化が進んだ法人だと数字が物語っています。関東10校の比較で慶應義塾が見せた構造(学生納付金比率29.3%)と同じタイプです。

基本金組入後収支比率 ―― 投資の年は100%を超える

基本金組入後収支比率=事業活動支出 ÷(事業活動収入 − 基本金組入額)

100%を超えると、当年度は基本金組入を含めて収支がマイナスだったことを意味します。校舎建設など大型投資の年は高くなります。

  • 100%超(当年度に大型の基本金組入):関西学院111.3%/立命館108.0%/関西大学106.2%
  • 100%未満:近畿大学98.0%/同志社95.5%

関西学院は基本金組入額82.4億円(基本金組入前収支差額37.8億円の2倍超)と、将来に向けた資産形成を積極的に行いました。この比率が高い=経営が悪い、ではありません。建物や基金への積み立てを当年度に厚く行ったことを示します。


② 資金運用で見る5法人 ―― 有価証券と受取利息

私立大学は授業料収入だけでなく、蓄えた資産(特定資産・有価証券)を運用して得る収益も重要な財源です。とくに将来の奨学金や研究基金の原資となる「第3号基本金引当特定資産」をどれだけ持ち、どう運用しているかは、その法人の財務体力を映します。

なお、有価証券の保有額は貸借対照表の本表だけでは分からないことが多くあります(関西大学は本表0.3億円に対し、注記の明細表では773億円)。注記での確認方法は別記事で解説しています。

特定資産・第3号基本金引当特定資産の比較(2024年度末・関西5校)
特定資産・第3号基本金引当特定資産の比較(2024年度末・関西5校)
受取利息・配当金の比較(2024年度・関西5校)
受取利息・配当金の比較(2024年度・関西5校)
運用利回りの比較(2024年度・関西5校)
運用利回りの比較(2024年度・関西5校)
第3号基本金の充実度─総資産比(2024年度末・関西5校)
第3号基本金の充実度─総資産比(2024年度末・関西5校)
アセットアロケーション比較(2024年度・有価証券ベース・関西5校)
アセットアロケーション比較(2024年度・有価証券ベース・関西5校)

受取利息・配当金は立命館が断トツ

順位 受取利息・配当金
立命館 29.7億円
関西大学 13.2億円
同志社 8.2億円
関西学院 5.3億円
近畿大学 1.8億円

立命館の29.7億円は2位関西大学の2倍以上。運用利回り(有価証券簿価ベース)でも2.39%と5法人で最も高く、さらに保有有価証券の含み益は約548億円(簿価1,225億円に対し時価1,773億円・時価のあるもの)に達します。投資信託が約70%を占めるアロケーションで、国内私大では関東の慶應義塾・早稲田と並ぶ運用規模です。

第3号基本金の充実度(総資産比)

将来の事業継続のために積み立てる第3号基本金が、総資産に占める割合です。5法人平均は5.0%でした(関東10校平均は9.7%)。

  • 高い:関西大学8.3%、同志社7.8%
  • 低い:立命館3.5%、近畿大学0.2%

近畿大学の第3号基本金は約10億円と、総資産4,902億円に対してごく小さい水準です。関西の5法人は全体として、関東上位校(慶應19.0%・青山学院14.8%)ほど第3号基本金を厚く積んでいないことが分かります。

運用スタイルは法人ごとに個性がある

保有有価証券の中身(アセットアロケーション)にも各法人の方針が表れます。

  • 立命館:投資信託70%・その他15%・債券14%。攻めの分散運用型
  • 関西学院:債券88%・株式12%。オーソドックスな債券中心型
  • 関西大学:金銭信託が431億円(56%)と過半を占める独特の構成。債券44%
  • 同志社:債券45%・その他54%。「その他」の内容は注記上の区分のまま
  • 近畿大学:時価のある有価証券の保有はゼロ。時価のない有価証券12億円のみで、実質的に有価証券運用を行っていない

近畿大学は現金預金592億円・特定資産724億円を抱えますが、その資金は運用ではなく建設仮勘定560億円(前年比約349億円増)という形で施設投資に向かっています。「運用で増やす」のではなく「キャンパスと病院に投じる」戦略であり、これも一つの経営の個性です。


まとめ ―― 関関同立近、それぞれの生存戦略

2024年度の関西5法人を見てきました。あらためて要点です。

  1. 収支の余裕は同志社・関西学院が高く、立命館・関西大学が低い(ただし単年度要因が大きい)
  2. 立命館・関西大学は本業の教育活動収支が赤字で、運用収益が経常黒字を支える
  3. 資金運用は立命館が規模・利回り・含み益のすべてで突出(受取利息29.7億円・含み益約548億円)
  4. 近畿大学は医療収入で稼ぎ、運用せず施設に投資するという、他の4法人とまったく異なる財務戦略
  5. 当年度に大型の基本金組入を行った関西学院・立命館・関西大学は基本金組入後収支比率が100%を超えた

偏差値やブランドだけでは見えない「経営の個性」が、決算書には表れています。同じ方法で比較した関東の有名私大10校の2024年度決算比較も公開しています。関東と関西で運用文化がどう違うかも見えてきますので、合わせてご覧ください。

同じ5法人の2025年度版も公開しています。同志社・関西大学の収支改善、立命館の運用の突出、近畿大学の病院移転後の反動など、1年での変化が大きく出ました。最新の姿はこちらをご覧ください。

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全5法人の詳細データ・元Excelはnoteで

本記事では横並びの要点に絞りました。1法人ずつ章を立てた深掘り(比率の分子・分母の生数値つき)、5法人の横断データ表、関東10校との対比、そして元データのExcel(自校の数値を入れると11比率が自動計算され、全国平均とも比較できるシート付き)は、noteで公開しています。

👉 関西有名私大5校 2024年度決算 徹底比較【完全版】(note・有料)


出典・注記

  • 数値はすべて各学校法人が公開している2024年度(令和6年度)決算書(計算書類)および事業報告書より取得。
  • 比率は私学事業団『今日の私学財政』に準拠した算式で算出。「経常収入=教育活動収入計+教育活動外収入計」。各比率の算式は私学事業団財務比率一覧(PDF)を参照。
  • 算出した比率は、各法人が事業報告書で公表する財務比率(2024年度値)と一致することを確認済み(関西大学・関西学院・同志社・立命館・近畿大学の公表分)。
  • 有価証券の簿価・時価・内訳は貸借対照表注記「有価証券の時価情報」の明細表より。時価のない有価証券は簿価で算入。
  • 近畿大学の受取利息・配当金は内訳(第3号基本金引当特定資産運用収入)の記載がないため、グラフでは「内訳非公開」としています。また同法人の運用利回りは、有価証券保有がごく小さいため、運用資産(現金預金+特定資産+有価証券:約1,321億円)ベースの参考値です。
  • 億円表記は四捨五入。比率は小数第1位。

決算分析・大学比較シリーズ

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この記事を書いた人

学校法人の財務・経理に10年以上従事。予算・決算、資金運用、学費を担当。各法人が公開している計算書類・事業報告書をもとに、私学の財務を分析しています。

資格:日商簿記2級、FP2級、TOEIC L&R 920点
投資:インデックス投資中心に10年以上(投資信託・米国株・暗号資産)

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