6月になり各学校法人の決算が出揃っている(はず)なので、資産運用結果について比較して見てみます。
大学の収入の多角化などが昨今話題に挙がりますが、大学の資産運用ってどうなってるんだろう、と思っている人向けの記事です。
他大学の運用はどうなっているのか気になる大学関係者の方、就職活動や転職活動してる方などに役立つかなと思います。
(東京都内で)
- 運用資産が多い学校法人はどこか
- アセットアロケーション(資産配分)はどのようになっているか
- 運用利回り(運用成績)がいいのはどこか
本記事でチェックした学校法人
- 早稲田大学
- 慶應義塾
- 上智学院
- 東京理科大学
- 国際基督教大学
- 明治大学
- 青山学院
- 立教学院
- 中央大学
- 法政大学
- 日本大学
- 東洋大学
- 駒澤大学
- 専修大学
です。「早慶上理」「日東駒専」など予備校的なカテゴライズからとりました。あとは資産運用に力を入れているICUなど。
また、設置大学ではなく、「学校法人」の決算になります。(そのため学校法人名で記載してます)
そして、あくまでも決算書からの情報しか分からないので、期待値は低めでお願いします。
私の主観・予測・勘には、「真偽のほどはわかりません」などとつけていますが、これは実態がわからないので、不用意に誤った情報を流布しないためですのでご了承ください。
運用対象資産
まずは運用対象資産の比較です。こちらは貸借対照表から数字を持ってきています。
計算方法
ここでの運用対象資産は、
特定資産+固定資産の有価証券+流動資産の有価証券+運用可能な現預金
です。
運用可能な現預金とは、現金預金ー流動負債ー第4号基本金とします。この計算結果がマイナスになる場合は0とします。
この辺りの計算方法は、私立学校振興・共済事業団(以下、「私学事業団」)が出している、学校法人基礎調査からのレポートに合わせています。
結果
結果は以下のとおりです。
運用対象資産がダントツなのは、2,800億円弱の日本大学です。次いで、慶應義塾1,500億円程、早稲田大学1,150億円程となります。
当然ですが、どの大学も「特定資産」を運用しています。特定資産とは、その名の通り、特定の使途に使うための資産で、第2号基本金引当特定資産、第3号基本金引当特定資産、退職給与引当特定資産などが代表的です。固定資産や流動資産と異なり、中身(実体)がわかりにくい資産ですが、多くの大学はこの特定資産を有価証券や預金で運用しています。慶應義塾なんかは、貸借対照表の「固定資産」の中に「有価証券」がありませんが、「特定資産」を有価証券で運用しているはずです。(貸借対照表の注記で債券や株式などを持っていることがわかるため)
いずれも、すぐに使うお金というよりは、中長期で計画的に使うお金です。
アセットアロケーション
アセットアロケーションとは資産配分のことで、何割を株式に投資して、何割を債券に投資して、という割合のことです。
こちらは貸借対照表の注記で、8(1)②明細票という部分に載っています。
状況は以下の通りです。(上智学院、駒澤大学は確認できず)
こちらは、学校法人により様々です。全体的にざっくり見ると債券に多く投資している学校法人が多いです。原資となるのは寄付金や、収入から支出を引いた収支差額であるためどうしても元本毀損のリスクを抑えた債券への投資が多くなるものと考えられます。
各法人の資金運用規定によって異なるとは思いますが、通常の公社債はなかなか利回りが出ないため、劣後債などのハイブリッド証券に投資をしている法人もいるのではないかと思います(推測)。
早稲田大学や青山学院の金銭等の信託は、特定金銭信託とかなんでしょうか。(ただの勘です。真偽不明です)
対して、国際基督教大学は投資信託が9割以上ですね。投資信託だけだと、株式メインの投資信託か債券メインの投資信託かわかりません。
一番わからないのは東洋大学のその他が9割以上ですかね。オルタナティブ(代替資産)なんでしょうか。(これもただの勘)
運用利回り(運用成績)
計算方法
計算方法は、貸借対照表と事業活動収支計算書から数字を持ってきています。
ここでは、私学事業団の計算方法よりも簡略化しています。
参考:私学事業団 学校法人の資産運用状況の集計結果
https://www.shigaku.go.jp/s_center_sisannunnyouaannke-to.htm
含み損益の増減を、運用成績に含めるのはなんか好きになれないです。理屈では確かに、一理あると感じますが。
私が使ったのは以下の計算方法です。
(受取利息・配当金+有価証券売却差額ー有価証券処分差額ー強制評価損)/運用対象資産(当期末)×100
結果
結果は以下のようになりました。
国際基督教大学が7.0%超でダントツ、次いで上智学院の2.8%程、慶應義塾と東京理科大学の2.5%程という結果になりました。前述のとおり国際基督教大学は投資信託での運用がほぼすべてですので、どのような投資信託を保有しているのか気になりますね。
2021年度の市況としては先進国株式・米国株式が好調だったので、そのあたりでしょうか。
早稲田大学、青山学院も奮闘していると思います。今の日本の長期金利、2022/6/6時点で0.24%ですからね。
各学校法人の事業報告書から
国際基督教大学
2022年6月12日現在、国際基督教大学の事業報告書の2021年度版はまだ公開されていませんでした。公開されたら載せようと思います。
ただ、以下のような説明文書を公開していることから、かなり資産運用には力を入れていることがわかります。ここでいう「力を入れている」とは、単にリスクをたくさんとって運用利回りを追求しているというわけではなく、リスク・リターンを考えて、許容できるリスクの中で堅実に利回りを得ようとしているという姿勢が見えます。
https://www.icu.ac.jp/about/docs/InvestmentResults_ofReserveAssets_inFY2020.pdf
上智学院
事業報告書に資金集計算書の過去5年間の推移が載っていました。
各年度でばらつきがありますが、受取利息・配当金収入の直近5年間の平均は15.7億円です。各年度の利回りまでは表示されていませんが、2017年度は21億円くらい受取利息・配当金収入があるので、かなり利回りが高そうですね。
慶應義塾
慶應義塾の事業報告書を見てみたら、事業活動収支計算書の過去5年間データが載っていました。
ここでの受取利息・配当金はかなり堅調に見えます。2021年度は38億円と、ピックアップした大学の中で一番大きい金額です(前述のように運用資産が多いということもありますが)。
アセットアロケーションでは債券が多かったので、債券のインカムゲインをメインとしているのではないかと推測します。
早稲田大学
早稲田大学の事業報告書を見てみたら、受取利息・配当金の推移があり、それによると、2019年度は一気に増えていました。
2019年の54.8億円が突出していますが、5年間の平均は29.3億円となります。2019年度の54.8億円を外れ値として除き、4年間で平均とすると23.0億円です。2012〜2016年度の5年間の平均は17.9億円なので、着実に伸ばしていることが伺えます。
最後に
以上、都内主要大学の2021年度資産運用状況でした。
おさらいすると、
- 運用資産が多い学校法人は、日本大学、慶應義塾、早稲田大学の順
- アセットアロケーションは学校法人ごとにまちまち。大まかにまとめると債券の割合が多い学校法人が多い
- 運用利回りが高いのは、国際基督教大学、上智学院、慶應義塾の順
でした。
もっと詳しく見てみたい方はぜひ自分で(笑)、事業報告書も見つつ、分析してみてください。
参考書籍