私立大学の資産運用実務|運用規程から売買・報告まで

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私立大学をはじめとする学校法人にとって、資産運用は授業料収入に依存しすぎない財政基盤をつくるための重要な業務です。この記事では、私が私立大学で資産運用を担当していた経験をもとに、「何をルール化しているのか(運用規程)」「規程をふまえてどう売買するのか(実際の流れ)」「誰に・どう報告するのか(報告体制)」という、運用実務の”仕組み”にしぼって解説します。

運用の目的(特定資産・第3号基本金)は大学が資産運用を行う目的、実際に投資している資産の中身や他大学の決算実例まで含めた全体像は私立大学の資産運用まとめにまとめています。あわせてご覧ください。

目次

運用の最重要ルール:運用規程

大学の資産運用で最も重要なのが運用規程です。これは、その大学が「資産運用について、どこまで・どのようにリスクを取るのか」という意思(運用方針の土台)をまとめたもので、すべての運用判断の出発点になります。私がいた大学でも、資産配分(アセットアロケーション)は幅を持たせつつ規程で定められていました。規程に盛り込まれる代表的な項目は次のようなものです。

  • 資産配分の方針と上下限(例:債券◯〜◯%など)
  • 許容する格付の下限、対象とする商品・除外する商品
  • 外貨建て資産に取り組むかどうか
  • 決裁の権限(誰がどこまで決められるか)と報告の義務

規程が保守的になりがちなのには理由があります。大学の運用資金の中心は、基本金のように運用益で毎年の事業(奨学金や研究費など)を支える性格のお金だからです。元本を大きく毀損すると事業計画そのものが揺らぐため、値動きの大きい商品は規程であらかじめ抑えておくわけです。株式の位置づけについては大学の資産運用に株式は必要かもご覧ください。

実際、過去のリーマンショックでは、複雑な仕組債などによって損失を出した私立大学もあり、その後、規程で対象商品を絞る見直しを行った大学もあります。仕組債の具体例は大学の債券運用とはの「注意したい債券:仕組債」で紹介しています。

運用規程から売買までの流れ

売買は、証券会社の営業提案から始まるわけではありません。出発点はあくまで運用規程で、そこから方針・資産配分の目標へと落とし込み、それに合う商品を選んでいく——というトップダウンの流れになります。私がいたときのおおまかな順序は次のとおりです。

運用規程(運用の最重要ルール)

規程の範囲内で運用方針を決める

方針にもとづきアセットアロケーション(資産配分)の目標を決める

目標に合う商品の提案を証券会社・信託銀行に依頼する

提案された商品を吟味(格付・利回り・運用規程との適合をチェック)

資産運用委員会(財務担当の役員・財務部長等)で審議し、規程に沿って決裁

発注・約定 → 受渡・簿価管理(決算では区分に応じて時価情報を注記)

このように、まず資産配分の目標があり、それを埋めるために商品提案を依頼します。提案された商品は、格付の下限、利回り(債券ならスプレッドの目安)、満期や流動性、そして運用規程の対象商品に収まっているかを確認したうえで、委員会の検討に上げます。同じ債券を複数の証券会社が持ち込むこともあるので、相見積もりのように条件を比較できる場面もあります。投資対象の債券そのものについては大学の債券運用とはで詳しく説明しています。

なお、ふだんは「規程→方針→売買」というトップダウンですが、運用方針を大きく変えたいときには、上位にある運用規程そのものを見直す、というややボトムアップ的な動きになることもあります。規程はあくまで土台ですが、必要に応じて改定していくものでもあります。

この骨格は、最新の公的指針とも重なります。2026年7月に文科省・経産省が公表した「大学の資産運用の促進・高度化に向けたガイドブック」は、まさにこの記事で書いてきた内容——運用目的・運用目標・運用方針の3点セット、理事会・資産運用委員会によるガバナンス、規程類の整備——を推奨としてまとめ、5分類42項目のチェックリストも付けています。自法人の規程・体制の棚卸しに使えますので、ガイドブックの解説記事もあわせてご覧ください。

実際にはトップダウンばかりとは限らない

もっとも、ここまでのトップダウン(規程・方針から資産配分の目標を決め、その枠内で売買する形)が、どの大学でも厳密に運用されているわけではありません。

市場環境や、持ち込まれる商品提案を見ながら、好機に応じて機動的に売買し、その結果としてアセットアロケーションを動かしていく大学もあります。基本となる配分から短中期で意図的に乖離させるタクティカル・アセットアロケーションや、市場環境に応じて配分を変えるダイナミック・アセットアロケーションに近い考え方です。配分の目標を先に固定するというより、状況に合わせて配分そのものを変えていくイメージです。

また、自前で資金運用を行っている(インハウスの)大学では、担当者の知識や経験のレベルによって、運用の体系立ち方が変わってしまいます。必ずしも整理されたトップダウンにはなっておらず、持ち込まれた提案ベースで判断していく——よく言えば機動的、悪く言えば場当たり的——な運用になっているところもあるかもしれません。

理想は、規程と方針という土台のうえに機動性も取り入れていくことですが、実態は大学(と担当者)によってさまざまだと思います。

誰に・どの頻度で報告するのか(報告体制)

売買や運用方針は、担当者個人の判断で決めるのではなく、資産運用委員会での審議を経て決めます。委員会は財務担当の役員や財務部長などで構成され、提案された商品を検討します。なお、最終的な決裁の権限を誰が持つか(委員会か、理事会など上位の機関か)は、大学の規程や決裁ルールによって異なります。

さらに、運用規程に定めたスパン(四半期や半期など)で理事会にも報告します。報告では、保有している有価証券の状況、含み損益、利回り、規程をきちんと守れているか、といった点を共有します。

このように「担当者→運用委員会→理事会」と複数の層でチェックする体制にしておくことで、特定の担当者の独断や、過度にリスクの高い運用を防ぐ——つまりガバナンスを効かせる狙いがあります。

投資先の中身・最新の決算実例はこちら

実際に大学が何へ投資しているか(債券・株式/ETF・私募リート・投資信託・オルタナティブ)の詳細や、他大学の決算実例、学校法人会計基準との関係まで含めた全体像は、まとめ記事に整理しています。

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この記事を書いた人

経理・財務が10年以上の大学職員です。

資格:簿記2級、FP2級、TOEIC L&R 920点
投資年数:10年以上
投資対象:投資信託(主にインデックス投資)、暗号資産、米国株

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