大学の授業料・学費返還という話(新型コロナウイルスに伴うオンライン授業関連)

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最近、「大学が普段と同じ授業を提供できないのだから、学費をいくらかでも返還すべき」という話が上がってきています。これについて考えてみたいと思います。
あらかじめ言ってしまうと、返還は厳しいんじゃないかなぁ、という所感(感想)です。ただ大学側・学生側どちらの言い分もわかります。(もちろん、教職員の給与は学費から出ている部分が大きいから、返還したくないだけなんだろ、というご批判も)

経緯

1.発端っぽそうなもの。推測なので、これじゃないかもしれません。

2.それについて、納得する声多数。
3.学生にオンライン署名活動が始まる
4.大学内で検討(していると思われる)

 

目次

「学費」とは

学費には、授業料、施設設備費(施設維持費)、実験実習費、教育充実費等、大学の収入となるものと、その他の費用として校友会費、学会費等、委託徴収となっているものがあります。

学費は何についての対価なのか

2006年(平成18年)に、学納金返還訴訟というものがありました。大学業界では有名(なはず)。これは入学辞退をしたときに、どこまでのお金が返還されるべきかという話で、ざっくりした結果だけ載せますと、「入学金は返還不要、授業料等は3月31日までに入学辞退を申し出れば返還」ということでした。

詳細:最高裁判所判例集
最高裁判所判例集 平成17(受)1158  不当利得返還請求事件 平成18年11月27日 最高裁判所第二小法廷

参考:法律事務所のWebサイトでの説明

弁護士法人みずほ中央法律事務所・司法書士法人みずほ中央事務所

この判例は、入学に関係する部分が主でしたが、大学と学生の在学契約についても判事事項となっています。

先述の最高裁判所判例集では

大学と当該大学の学生との間で締結される在学契約は,大学が学生に対して,講義,実習及び実験等の教育活動を実施するという方法で,大学の目的にかなった教育役務を提供するとともに,これに必要な教育施設等を利用させる義務を負い,他方,学生が大学に対して,これらに対する対価を支払う義務を負うことを中核的な要素とするものであり,学生が部分社会を形成する組織体である大学の構成員としての学生の身分,地位を取得,保持し,大学の包括的な指導,規律に服するという要素も有し,教育法規や教育の理念によって規律されることが予定されている有償双務契約としての性質を有する私法上の無名契約である。

となっています。つまり、大学は「講義,実習及び実験等の教育活動を実施するという方法で,大学の目的にかなった教育役務を提供するとともに,これに必要な教育施設等を利用させる義務を負」うということです。

オンライン(遠隔)で授業を行う場合は、「授業料」は通常の金額でよいか

先の判例からすると、前段の「教育役務の提供」と後段の「必要な教育施設等を利用させる」に分けられるかと思います。

(1)オンライン授業、遠隔授業が教育役務の提供として妥当なのかは、オンライン授業の質によるので、教員ごとの姿勢やICT理解にもよりそうです。(教員ごとに授業の質に差があるのは、対面授業でも同じかもしれません。)
さぁ、では、「大学の目的にかなった教育役務の提供ができていない」と判断できるのはどのような状況なのでしょうね。新型コロナによってオンライン授業となる期間にもよるかもしれませんが、今のところ1年間まるまるオンライン授業にする大学はなさそうですよね。(すべて調べたわけではありません。もしあったらすみません)
大学側は「オンライン授業で十分な教育効果をあげることができた」学生側は「十分ではない」とする場合判断はどうすればよいのか謎です。
たしかに美大や体育系、理工系の実技・実習や実験を伴う授業の場合、オンラインでは厳しいという意見もっともに思えます。ただ、もし学費が返還されるほど、教育役務の提供ができていないとすれば、通常と同様に単位を授与することはできないのではないかと思ったりもします。

(2)新型コロナウィルス感染予防の観点からキャンパスに立ち入り禁止となっている昨今では、教育施設等は利用できません。これも(1)と同じように気になるのが、新型コロナがなくても、365日教育施設が利用できるわけではありません。それでは、どの程度(どれくらいの期間)使えなければ、大学側が義務を果たしていない、となるのでしょうか。1年における授業日・補講日の合計の日にちを分母として、そのうち新型コロナで教育施設が利用できない日を分子として、日割りでしょうか。それは極端だとしても、境目はわかりません。

ちなみに、文科省は以下のような通知も出しています。

(参考:高等学校)
新型コロナウイルス感染症に対応した小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校等における教育活動の再開等に関するQ&Aの送付について(4月17日時点)

「問70 臨時休業期間中の高等学校の授業料は、返還するべきか。」
という項目があり、

○ 臨時休業により授業が行われないことになる場合においても、各学年の課程の修了や卒業の認定を行ったり、休業中の家庭学習等の支援や臨時休業終了後の補修等の配慮を行ったりするなど、教育に関する様々な役務提供があり、授業料は、こうした役務提供
を含め、学校の教育活動に必要となる費用を総合して定められているものであり、その徴収については、半期、四半期、月毎などで行われているものです。
○ 個々の学校における授業料の取扱いについては、学校設置者の権限と責任において適切に定め、運用すべきものですが、こうした授業料の性質に鑑みれば、このたびの臨時休業の場合においても、必ずしも授業料の返還が生じるものではないと考えます。

となっています。これはあくまで高等学校についてですが。
ちなみに大学については以下のような記述です。

(参考:大学)
新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言が示された場合における大学等の臨時休業の実施に係る考え方等について(周知)

ここでは

例えば,経済的に困難な学生については,奨学金や授業料等減免等の制度の周知や申込についての情報提供,各種手続の柔軟な対応等、就職活動中の
学生については,各校のウェブサイト等に就職活動に関する特設ページを開設するな
ど,学生が安心して修学や就職活動を続けられるように,十分配慮をお願いします。

というくらいにとどまっています。これは、学生全員への一律ではなく、経済的に困窮している人を対象に、ということですね。

付随的なところ、実際問題

そもそも大学側は学費返還できるほど財務が安定しているのか

例として、2018年度の早稲田大学の決算を見てみます。

2018年度決算の事業活動収支計算書(企業の損益計算書に近いもの)では、学納金(授業料、入学金、実験実習料、施設設備資金、学生読書室図書費収入)は663億円、基本金組入前当年度収支差額(企業の当期純利益に近いもの)は+60億円です。

仮に学納金が半額(大体330億円)返還になると、基本金組入前当年度収支差額ー270億円くらいになって大赤字ですね。ちなみに恒常的に保持すべき資金として蓄えている貸借対照表の右下の第4号基本金は69億円なので全然足りないです。

企業のキャッシュフロー計算書に近い、「活動区分資金収支計算書」でみても、教育活動による資金収支が121億円のところ、330億円学費返還したら、教育活動による資金収支も赤字となります。そもそも「支払資金の増減額(小計+その他の活動資金収支差額)」が37百万円ですから、立ち行かないですよね。

ということで、今回ざっくり、代表的な私学である早稲田大学で、学納金の半額返還で考えてみましたが、財務的には厳しいですね。(ただの一例で早稲田大学を挙げただけです。早稲田大学を悪く言うつもりは全くありませんし、現時点で財務があぶないわけでは全くありません。)

半額じゃなくて、4分の1とか、6分の1とか、施設設備資金だけだったらなんとかなるかもわかりません。(ただ、後述するような実際の返還作業では、より作業量が増しますが)もし返還をした上で、収入の減少に合わせて、人件費なり経費を削ることができれば、理論上なんとかなるのかもしれませんが、当初予定していた事業計画の何割かは実行できなくなりますね。

仮に返還するとしたら、その方法・流れ

もし、仮に返還するとしたらどんな流れかということですが、これが大規模大学であればあるほど大変そうで、想像するだけでお腹いっぱいです。

(1)昨今話題の、新型コロナで一律10万円を給付するのと似たようなお話で、まず口座情報を集めます。学費の口座振替を利用している大学であれば、すでに口座情報がわかると思うので、省けそうですね。

(2)口座がわかれば、個々人の返還金額を算定・確認して、振り込みという流れです。さて、ここでも総合大学であると、学部・大学院ごとに学費が異なることが多いでしょうから、確認・処理には時間とコストが膨大になりそうですね。もちろん学生個人個人について、「この人は学費いくら払っている」というマスタがあるわけですから。学部ごとに学費の処理事務を分担している場合もあるかもしれませんが、大規模大学では言うまでもなく件数が。。。

教職員も普段の何倍もの準備や労働をしている

教員も職員も、オンライン授業のために奔走して準備しています。手前味噌ですみません。正直、教務系の経験はほぼ無いので、詳細はわかりかねますが。もちろん、一般の企業だって外出自粛によって売上が激減しているのだから、奔走してるのは同じだろ、といわれればそのとおりです。

以上だらだらと、長くなってしまいましたが、学費の返還を求める声もわかりますが、現実的なのは家計急変に対しての奨学金を出すことではないでしょうか。アメリカは学費のディスカウントを打ち出し始めていますが、年間の学費や財政規模が日本と違うこと、新型コロナの状況も日本と違うことから比較していません(あと調べる労力・意欲が枯渇してしまい)。
ただ、なんとかオンラインで授業をやるにしても、IT環境が整えられない学生に対しての補助とかは考えてもいいかもしれません。

関連記事:いくつかの大学が学生のインターネット・PC環境に補助(お金)を支給すると発表

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この記事を書いた人

経理・財務経験が6年程度の大学職員です。

資格:簿記2級、FP2級、TOEIC L&R 880点
投資年数:10年
投資経験:投資信託(インデックス投資)、米国ETF、トラリピ(FX自動売買)、トライオートETF(株価CFDの自動売買)、暗号資産(仮想通貨)

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