久しぶりに大学の運用についてです。さて、大学における資産運用って自家運用なのか、委託運用なのかどちらでしょうか。ちなみに前者は、自分たち(学内教職員)メインでやっている場合、後者はプロ(証券会社や外部の運用会社)にまかせている場合を想定しています。
旧来的に、大学の資産運用は自家運用でやっているところが多いです。委託運用で有名な上智大学のことを調べていたら、以下の資料が見つかりました。
平成28年 拡大版コーポレートガバナンス研究会「アセット・オーナーとして果たすべき役割と アセット・オーナーから見た アセット・マネジャーへの期待」
こちらのP.13にあるように、調査回答の8割5分が自家運用を行っています。
対して、上智大学は外部委託運用をメインとしています。
上智大学の引間雅史氏は資産運用業界出身ということで専門家としての知識・経験を元に上智大学の運用に取り組んでいるようです。運用に携わる教職員に金融業界出身者が入っているのはとても頼もしいことだと思います。
外部委託運用のメリットとしては、外部の投資のプロに任せられ、教職員で資産運用の知識が乏しい場合でも運用ができるという点です。
ただ、世間でよく言われているように、投資のプロがファンドマネージャーをやっているファンドでも、ほとんどのインデックス投資(パッシブ運用)に勝てないという事実もあります。そして、いくらプロに任せるといっても、その委託先を選んだり、その成果を評価するには、やはり多少なりとも金融の知識は必要です。委託先が運用に失敗してもその影響を受けるのは大学ですからね。その点の委託先選定理由、検討過程などの説明責任も出てくるでしょう。
自家運用で行っている大学でも、専門的な知識を持っている職員や理事が少ない等の問題があるかと思います。またそうした理由で資産の多くが預金や日本国債になっているようです。
以前書いた記事(私立大学の貸借対照表に「有価証券」がない?あるけど金額少ない?)で、早慶・明治の決算書を抜粋して載せましたが、そこでも債券の割合が多かったです。
まぁ、あれくらいの私学になると債券と言っても国債だけってことはないのではないかと思います。金融機関や生損保の劣後債であったり、外債とかをやっているかもしれません。
自家運用のメリット
自分たちで運用しているから説明責任を果たしやすいということでしょうか。また業者に委託しない分、手数料や投資顧問料が少なくて済みます。(投資の世界の手数料というのは、運用成績を押し下げる大きなものですので。もちろん大きな利益が出ていれば手数料を払ってもよいですが、手数料によって利益が吹き飛んだり、運用成績がマイナスなのに手数料払ったりとかあります。)
自家運用のデメリット
デメリットは適切なリスク管理、運用担当職員の養成、証券会社に都合のいい商品を買わされる可能性、などでしょうか。
私が運用の業務をしていたときは自家運用でした(多分今もそうでしょう)。デメリットへの対策としては次のようなことをやっていました。前任から上司からそのようにやることを言われていましたので、私のオリジナルではないです。苦笑
1.運用規程で決められたアセットアロケーション(資産配分)にするのは当然のこと、証券会社にVaR(バリュー・アット・リスク)を計算してもらい、最大でいくらの損失がでるかということを確認していました。
2.知識としては、証券会社主催のセミナーに出席したり、自身で書籍を買って読んだりしていました。セオリーとして金利・為替・株価の動きを知っておくといいと上司に言われ、その動きを念頭においてました。もちろん現実はセオリーどおりに行かないのですが、考え方の基礎として知っておくといいと思いました。また自分で個人の資産運用をしてみるといい、と言われたので、このころ自分でも資産運用をはじめました。
3.商品選定という点では純粋な債券(固定利付債)をメインとして、複雑な商品は極力組み入れないようにしていました。仕組債は取り組まず、信託報酬のかかる債券の投資信託も買いません。この辺は上司が以前から証券会社に耳タコなくらい言っていたので、向こうも売ってこようとしませんでした。
もちろん長期的に運用すれば、株資産の方がパフォーマンスがよくなることは、ジェレミー・シーゲル『株式投資』『株式投資の未来』でも言われていますが、第3号基本金の運用として、毎年度奨学金や、研究費として支出する事業計画があると、やはりインカムゲインの方が理にかなっているかと思います。米国の高配当株ETFとかもいいかもしれません。
今後、国立大学も私立大学も運営費交付金や経常費等補助金の減少により、資産運用による収入が重要になってくると言われていますが、リスクのことや専門知識のことでうまく取り組めていない大学は多いのかなと感じますが、少しでも有益な情報となれば幸いです。
参考書籍
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