先日、「私立大学職員の経理・会計の業務8選」という記事を書きましたが、今回は財務について書いていきます。大学の財務・資産運用の仕事って何してるんだろう、って思う方も多いと思います。就職活動・転職活動をしている方はもちろん、はたまた私立大学に勤めているけど財務って何やっているのかよくわからんという人の一助になれば幸いです。
また、
私は財務部署なんだけど、うちの大学は運用なんて預金と国債だけで・・・。
という人にもおすすめです。
私は、私立大学で100億円以上の特定資産の資産運用を行っていましたので、その経験を元に書いていきます。
結論(まとめ)
今回説明するのは以下4点です!
- 資金繰り
- 資産(資金)運用
- 予算
- 決算
財務としての業務としては大まかに言えばこの4つになると思われるからです。
資金繰り
まず資金繰りについて説明します。これは、大枠としては民間企業とも通ずるものがあると思います。すごくざっくり言うと、要は、支払い資金がショートしないか注意するというものです。
前提
私立大学では、たいてい3月4月と9月10月に学費収入の入金があります。前期と後期ですね。口座振替で学費を徴収している大学は、タイムラグというか口座への入金はもうちょっと遅くなるかもしれませんね。
私立大学等経常費補助金という文科省(私学事業団)からの補助金は、12月と3月に入金されます。
参考:私立学校振興・共済事業団 私学振興事業本部 私立大学等経常費補助金年間業務予定
https://www.shigaku.go.jp/s_hojo_menu.htm
民間企業と異なる点
民間企業と異なる点として、以上の前提があります。なぜなら財・サービスの提供が全て完了する前に、決まった時期(前期と後期の始め)にお金を受け取れるからです。これを考えると、大きな建物を建てるとかでなければ、そこまで資金繰りに困る大学はいないのではと思ったりします。
決済用銀行口座の残高と支出予定の把握
上記の前提を頭に入れつつ、前年の支払い実績から、どれくらいの期間で決済用口座のお金が尽きそうか、予想しておきます。適宜、支払用ではない口座から、お金を移したりします。「全口座からかき集めても現預金が足りない」という状況はあまりないです。ていうかあったら、銀行から借入するなりしたほうがよいです。
短期借入(運転資金)
前提でも書いたとおり、3月・4月・9月・10月・12月は現預金は比較的あるはずなので、8月〜9月前半がちょっと現預金が少なくなります。ここで、現預金の残高が少なくなって不安な大学は、短期借入をします。(もちろん、今日の明日で借りられるわけではないので、準備はもっと早くから計画的に)
長期借入(固定資産の取得)
こちらはいわゆる箱モノ(大きな建物とか)を建てるときに、1年以上の返済期間で借ります。もちろん借入金額によりますが10年とか20年とか。毎年の資金収支から借入金返済をしていきます。
短期借入も長期借入もいくつかの銀行に声をかけて、低金利で貸してくれるとこから借ります。なお私学事業団からも長期借入ができます。
私立学校振興・共済事業団 私学振興事業本部
https://www.shigaku.go.jp/s_yushi_menu.htm
借入金利については以下の記事もご参考まで
資産運用
大学が資産運用する理由については以下の記事で書いています。簡単に言ってしまえば、特定資産のため、なかでも第3号基本金引当特定資産のためです。運用果実で奨学金や研究費を支給します。また、第2号基本金引当特定資産を運用して、将来の固定資産の取得に備えたり、退職給与引当金を運用して、教職員の退職に備えたり、という面もあります。
前提準備
資産運用規程や運用方針の確認、既存のポートフォリオとそのリスクの確認が必要です。そうしないと、全体像が見えづらくなります。
金融機関対応
主には証券会社ですが、銀行やほかの金融機関からも話がやってきます。基本的には、向こうは商品の提案をしてきます。
重要なのは、事前に大学側の求める商品の前提・水準を、口を酸っぱくして言っておくことです。そうしないと、金融機関の営業担当者が、こちらにとって全然興味のない商品提案をしてきて、お互いに(これ重要)、無駄な時間を過ごしてしまいます。
こんな投資信託のご提案をお持ちしました。いかがですか!
今は、そのアセット求めてないんだよなぁ
このような自体を避けるためには以下のようにすると良いのではないかと思います。
うちは円債なら利回り1%以上、米ドル債なら利回り4%以上ないと、利回り水準として厳しいです。格付はもちろん投資適格債券じゃないと買えません。あと仕組債はだめです。
ちなみに投資信託は間に合ってるけど海外ETFでいいものがあれば少し買えるかもしれません。
なるほど、承知しました。次回、ご希望に合う円債と米ドル債をピックアップしてご提案します。
資産運用委員会
簡単に言えば、運用方針の検討や策定、市況の分析、運用成績の進捗確認、ポートフォリオのリスク(VaR)の確認、売買の検討をします。
予算
財務関係の予算では、既出の借入金のことはもちろん、資産運用の予算も立てます。資産運用の予算については次の3つが要因となります。
第3号基本金(基金)の予定利率
基金とは簡単に言えば、寄付金やそれまでの黒字から組み入れた、でっかいお金のかたまり(元金)みたいなものです。そして基金を運用して、その運用から出た利益(運用果実)で、奨学金や研究費などの事業を行います。したがって、運用果実がどれくらいでるか決めないと、支出する予算も決められません。そこで、予定の利率を決めたりします。これが、資産運用の目標利回りに関係してきます。
予算年度の前年度実績見込
決算見込みから予算を考えるというやつです。ほかにも影響がありそうな事象があれば折り込みます。
金融情勢なども折り込みたいところですが、これは正直、予算を立てる時期に、予算年度の金融情勢なんてわかりません。個人的には、未来の予想なんて、プロのアナリストでも間違えるんだから大学職員が予想するのは無理だと思っています。
決算
報告書(要は運用成績)をまとめる
結果をまとめて、いろいろな会議に出します。
もし、予算で立てた運用成績に満たない場合は、その理由や言い訳を説明します。予算達成が厳しいからと言って、決算時点であまりどうこうできるものじゃないです。
まぁ、無理やりやろうとするならば、含み益(買ったときの値段(簿価)よりも今の値段(時価)が高い状態)の商品を、将来のことを考えずに売れば、予算達成できることもあるでしょう。
しかし、利益を先食いするだけで、今度は来年度、再来年度の運用成績が厳しくなってしまうので、無理やり予算達成することはおすすめできません。
減損
年度末時点で、取得価格よりも著しく時価が下がっている有価証券があれば、減損をします。学校会計は基本、簿価(取得価格)で管理していくのですが、時価が50%を下回ると強制的に時価になおし、資産処分差額として損失を計上します。
最後に
以上、ながながとなりましたが、財務部署の業務一例でした。
おさらいがてら再掲すると以下です。
- 資金繰り
- 資産(資金)運用
- 予算
- 決算
前回の記事でも、経理・会計は学校法人全体のことが見えてよいと書きましたが、その点は財務部署も同じです。予算書・決算書は協力して作りますしね。経理・会計よりも財務のほうが面白いと思っています。予算という数値目標(ノルマ?)があり、それを達成するために日々働くというのは大学職員の仕事の中では興味深いです。(予算を達成できなくて上司に詰められるわけではありませんが)
財務での仕事をやるにあたって何を勉強すればよいか、については以下の記事もご覧ください。
また、私立大学の資産運用について基礎知識からアセットのことまで以下にまとめましたので、ご参照ください。