何度か大学の債券投資について書きましたが、資金運用の規程(ルール)上、劣後債や外貨建て債券は買えないという大学もあるかと思います。
今回はそのような大学のために、日本国債のラダー型運用について書きます。この運用手法では、名前のとおり日本国債を売買しますので、規程的にセーフということが見込めます。
ちなみに、これまでの債券関係の記事は以下です。


ラダー型運用とは?
ラダー型運用とは、横軸に各債券の残存年、縦軸に債券の数量をとり、例えば毎年10年国債を同じ数量だけ買い、残存期間が1年〜10年まで持って、償還が来たらまた10年国債に再投資するというものです。縦軸の数量と、横軸の残存年からラダー(はしご)のように見えることから名付けられたようです。
参考:iFinance 金融情報サイト
さらに、これを償還ではなく、一定の残存年を切ったら売却して再投資するものを部分ラダー型運用などと呼びます。
例えば、10年国債を買って金利(クーポン)収入を受け取りながら保有し、残存年数が5年を切ったら償還を待たずに売却して、また10年国債を買い直す、というような方法です(20年国債を残存15年で入れ替える、といった設計も同様の考え方です)。どの残存ゾーンで入れ替えるかは、後述するイールドカーブの形を見て決めます。
メリットとデメリット
次にこの日本国債の部分ラダー型運用のメリットとデメリットについて説明します。
メリット
金利変動への耐性という点では、金利が低く(債券価格が高く)なったら、途中売却してもよいですし、最悪金利が高く(債券価格が安く)なったら、償還まで保有すれば単価100で戻ってきます。
インカムゲインとキャピタルゲインを狙えるというのは、利金とローリング効果による売却益です。
通常、残存年が長い債券ほど利回りが高いです。財務省の国債金利情報によると、2026年7月22日時点で5年1.978%・10年2.745%と、5年から10年のゾーンには約0.77%の傾きがあります。

ここで10年国債(利回り年2.745%)を買って5年間保有したとします。カーブの形が変わらなければ、手元の債券は「残存5年・クーポン2.7%台」の債券になります。市場の残存5年の利回りは1.978%ですから、この債券は利回りが揃う水準まで単価(時価)が上がります。概算で単価103円台半ば、約3.5円の値上がりです。売却すればこれが実現益になり、年あたりに直すと、クーポン年2.7%台に加えてロールダウン(ローリング)効果で年0.7%程度が上乗せされる計算です(いずれも概算・カーブ不変の仮定・銘柄のクーポン水準で単価は変わります)。
ポイントは、イールドカーブの傾きが急な区間を選んで転がすことです。2026年7月時点では、上記の5年→10年の傾き約0.77%に対し、15年→20年は約0.32%、さらに25年(3.94%)と30年(3.90%)は逆転しています。同じ「長い債券を買って短くなったら売る」でも、どのゾーンかでロールダウンの旨味は大きく違います。
参考:野村證券
前提としては、イールドカーブが順イールドである(長期債の方が、短期債より利回りが高い)ことが必要で、傾きが変わらないことが理想です。金利全体が上がっていく局面では、値上がり分が金利上昇による値下がりで相殺され、ロールダウン益が出ないこともあります。
デメリット
ここは誤解されやすいところなので、はっきり書いておきます。金利上昇で含み損を抱えたとき、満期まで保有すれば単価100で戻ってくるので、評価損を実現させずに済みます。しかし、その時点で売却して、より高い利回りの新発債に買い替えていれば、償還までの期間はその高い利回りを受け取れたはずです。満期保有への切替えは、この「得られたはずの利回りとの差」を機会損失として引き受けることと同じで、実現損を避けても経済的な負担は消えていない、つまり損の見せ方を変えているだけともいえます。
学校法人会計では有価証券は原則として取得価額で計上され、評価損は(著しい下落の場合を除き)収支計算書に出てきません。だからこそ満期保有への切替えは「見え方」の上では楽な選択になりやすいのですが、これは裏を返すと、含み損を抱えた債券で身動きが取りづらくなる構造でもあります。2026年7月に文科省・経産省が公表した大学の資産運用ガイドブックをめぐる研究会でも、まさにこの構造が論点になりました(時価ベースのトータル・リターンで運用を評価すべきだ、という方向です)。
国債の金利は変動しますので理想どおりには行きませんが、以上のトレードオフを理解した上で使うなら、満期保有一辺倒で塩漬けを重ねるよりも、規律を持って回しやすい方法だと思います。
ネックになるのは、超長期債を買えるような資金運用規程になっているかというところ、既発債を単価100以上(オーバーパー)でも買える規程であることですね。
この辺がクリアできれば検討する価値はあると思います。
まず通常ラダー、慣れたら部分ラダー
ここまで部分ラダーを中心に書きましたが、実は2026年7月時点のカーブを「年あたりの傾き」で見ると、1年(1.199%)から5年(1.978%)のゾーンは4年で約0.78%=年あたり約0.195%と、5年→10年(年あたり約0.153%)より急です。したがって、売却を伴わない通常のラダー型運用——毎年5年債を同じ額だけ買い、満期まで持って、償還金をまた5年債に再投資する——でも、いま組み始める価値は十分あります。両者を比べると次のとおりです。
| 通常ラダー(5年・満期保有) | 部分ラダー(10年→残存5年で売却) | |
|---|---|---|
| 期待利回りの目安 | 約2.0%(5年金利。組み上がると過去5年分の平均) | 3%台半ば(クーポン2.7%台+ロールダウン約0.7%・概算) |
| 途中売却 | 不要(償還を待つだけ) | 必要(時価・実現損益と向き合う) |
| 規程との相性 | 満期保有のみで運用しやすい。毎年償還が来て流動性も確保できる | オーバーパー購入・途中売却の可否の確認が必要 |
| 金利上昇時 | 毎年の再投資が自動的に高い金利を拾う | 売却の予定を崩される(前述の「損の見せ方」の問題) |
通常ラダーは、判断も売却も要らず、毎年の償還→再投資が金利上昇を自動的に拾ってくれるので、担当者が交代しても回しやすい方法です。これから運用体制を整える法人は、まず通常の5年ラダーで始めて、売却の規律や規程の整備ができてから部分ラダーで上乗せを取りに行く、という二段構えが現実的だと思います(数値はいずれも2026年7月22日時点のカーブに基づく概算です)。
最後に
以上が、大学で行うことができるラダー型運用の話でした。
ちなみに為替という不確定要素が加わってしまいますが、米国債で同様のことを行なうこともできます。
なお、2026年7月には文科省・経産省が「大学の資産運用の促進・高度化に向けたガイドブック」を公表し、平成21年通知の再解釈(株式・投信等も可能)や時価情報の開示充実の方向が示されました。国債中心の運用しかできない規程の見直しも含め、議論の前提が変わりつつあります。詳しくは別記事で解説しています。

また、その他の大学の資産運用についても記事を書いていますので、よろしければご覧ください。


