私立大学でも国立大学でも、経常費補助金や運営費交付金が伸び悩むなか、学納金以外の収入の多角化が課題になっています。
そこで本記事では、私立大学(学校法人)の財務部署で運用に携わっていた私が、大学の資産運用についてまとめています。この記事はいわば「入口」で、次の流れで全体像を示しながら、それぞれの詳しい記事へ案内します。
- 財務に異動したら、まず学ぶこと(基礎知識)
- そもそもなぜ大学が運用するのか(運用目的=基金)
- 具体的な運用アセット(債券・株式・投資信託・オルタナティブ)
- 決算書のどこを見るか(注記②と2つの利回り)
- 他大学の運用状況(決算書から読み解く実例)
- 前提となる学校法人会計基準
結論を先に言えば、大学の資産運用は「基金(将来の事業原資)を、過度なリスクを取らずに長期で育てる」ことが目的です。債券を軸に据えつつ、各大学が株式・投資信託・オルタナティブを組み合わせている、というのが実態です。
そして2025年度決算では、金利上昇を受けて「何で運用しているか」が含み損益の明暗をはっきり分けました。債券中心の法人には含み損が、株式や金銭信託を厚く持つ法人には含み益が乗り、運用スタイルの違いがそのまま決算書に表れる年になっています。実際の数字は後半の比較記事で紹介します。
大学職員で財務に異動になったら
学校法人の資金調達や資産運用について、何から学べばいいかわからないという方は、まずこちらからご覧ください。
簡潔に言えば、「借入金利、長期金利、中央銀行のニュースを学び、金利・為替・株価の関係(セオリー)を頭に入れましょう」ということです。


運用目的
なぜ私立大学が資産運用するのかという疑問への答えは、簡単に言えば「基金のため」です。詳細は以下をご覧ください。

なお、実際に運用を行う体制として自家運用と委託運用のどちらを選ぶかという論点は、別記事「大学の資産運用は自家運用?委託運用?」で解説しています。
運用している有価証券について
続いて、具体的にはどんな有価証券(アセット)で運用しているかです。傾向として、債券を持っている大学が多いですが、大学により様々です。
各アセットについては以下をご覧ください。
債券
債券とは、国や金融機関、事業会社が資金調達するために発行している有価証券です。償還まで、半年ごとに利金(利息)がもらえます。一番有名なのは日本国債ですね。
その債券についてのことは、いくつか記事を分けて書いていますので、詳細は以下をご覧ください。




なお、金利が上昇すると保有債券の時価は下がります。満期保有なら額面で償還されるため確定損ではありませんが、決算書の注記には含み損として表れます。2025年度決算で債券中心の法人に含み損が並んだのはこの構図です(後述の比較記事参照)。
株式
株式は、多くの場合、証券取引所で取引されている株を買ったり売ったりして値上がり益(キャピタルゲイン)を得たり、配当金(インカムゲイン)を得たりするものです。
上場していない株式もありますが、あまりメジャーな投資先ではありませんね。非上場の時代に大学が株を買ったりもらったりして、もしその会社が上場すればすごい利益になりますが、上場できない会社のほうが多いですから。
大学における株式への投資については以下をご覧ください。

投資信託(ETF・REIT含む)
投資信託とは、投資家がたくさんお金を出し合って、そのお金でいろいろな上場株式や債券を買い、その利益を分配する商品です。
ETF(読み:イーティーエフ)とは、上場投資信託:Exchange Traded Fundsの略語です。投資信託が上場することで、流動性が高くなった(より機動的に売買できる)ものです。
REIT(読み:リート)とは、不動産投資信託:Real Estate Investment Trustの略語です。これは、投資信託の不動産バージョンであり、投資家が出し合ったお金(と銀行借入)で不動産を買い、そこにテナントを入れ得られた賃料を、投資家に分配する商品です。
REITにも上場しているものとしていないものがあります。上場していないものは私募(限られた投資家にのみに私的に募集がいく)リートといいます。

投資信託やETF、REITは、多くの投資先に分散できるのが強みです。ただし手数料の高い商品を掴まされると、想定していた収益が出ません。学校法人の運用でも、コストの低いインデックス型を軸に検討するのが基本になります。
オルタナティブ(代替資産)
こちらはプライベート・エクイティだったり、ヘッジ・ファンド(絶対収益)だったり、ロング・ショート戦略だったり、株や債券とは相関しないで高成績を目指すものです。形態としては投資信託だったりもします。
デメリットとしては、流動性が低いということがあります。現金化しようとしたときに、なかなか売れなかったり、売れたとしても安く買い叩かれたりします。
アメリカの私立大学では、大規模な基金(endowment)を持つ大学ほどオルタナティブの比率が高い傾向が、NACUBOの調査で示されています。この「エンダウメント運用」の実像は、ハーバードと早慶の比較、基金規模とリターンの関係、日本版ファンドである10兆円大学ファンドの分析の3本で詳しく取り上げています。日本でも規模の大きい一部の大学はオルタナティブ投資に踏み込んでいるとみられますが、まだ一般的とまでは言えません。
決算書のどこを見るか:注記②と2つの利回り
他大学の運用状況を自分で調べたい方向けに、決算書の見方を2点だけ押さえておきます。
1つめは、有価証券は貸借対照表の本表ではなく注記で見るということです。学校法人の運用資産の多くは特定資産(第3号基本金引当特定資産など)の中に含まれており、本表の「有価証券」の行だけを見ると運用の実態を大きく取り逃がします。全体像は注記「有価証券の時価情報」の②明細表(簿価・時価・含み損益)で確認します。なお、この明細表は令和8年度決算から記載が細分化されます(変更点は別記事で解説しています)。

2つめは、「利回り」には2つの見方があるということです。受取利息・配当金だけを見るインカム利回り(実入りベース)と、私学事業団が「学校法人の資産運用状況の集計結果」で用いるトータルリターン(売却損益や含み損益の増減まで含む)です。同じ法人でも、どちらで見るかで運用成績の景色は変わります。以下の比較記事では両方を並べて計算しています。
他大学の資産運用状況(決算書から読み解く)
実際の決算書から、各大学の運用状況を比較・分析したシリーズです。2025年度版(最新)では、金利上昇で「債券中心の法人に含み損・株式や金銭信託中心の法人に含み益」という二極化がはっきり表れました。




過去の年度のものは以下です(時系列で読み比べると、金利環境の変化が運用結果に表れる様子が分かります)。
- 「【2024年度決算】関東の有名私大10校を財務で比べてみた」
- 「【2024年度決算】関西の有名私大5法人を財務で比べてみた」
- 「【2024年度】学校法人の資金運用を比較する:日大・帝京・慶應・早稲田・上智・ICU」
- 「大学職員がClaude Codeで3大学の決算書を分析した話(慶應・明治・立教)」
- 「都内主要学校法人の資産運用結果比較(2021年度決算)」
- 「都内主要学校法人の資産運用結果比較(2019年度決算)」
学校法人会計基準
大学の運用から少しそれますが、私立大学(私立学校)が準拠している学校法人会計基準について以下の記事にまとめていますので、よろしければご覧ください。

まとめ
大学の資産運用は、目先の利回りを追うよりも、基金を長期で安定的に育てることが基本です。まずは金利・為替・株価の関係といった基礎を押さえ、債券を軸に各アセットの特性を理解したうえで、自校の運用方針と決算書を照らし合わせて考えていくのがよいでしょう。
そして2025年度決算が示したとおり、金利のある世界では「何で運用しているか」が決算書の見た目を大きく変えます。他校の注記②を読み比べることは、自校の運用スタイルを客観視するいちばんの近道です。本記事が、その全体像をつかむ入口になれば幸いです。
